日本エネルギー会議

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突然の決断

運転開始後40年間を超し、さらに20年間の運転を目指す関西電力の美浜原発3号機の運転延長が今月、原子力規制委員会で認可された。関西電力の岩根社長は記者会見で美浜3号機の再稼働について「概算で経済合理性があると考えているが、認可を受けた時点で工事費を精査し経営判断する」と語っていた。

ところが、岩根社長は28日になって「美浜3号機を動かさないことは考えてない」と、再稼働する方針を明言した。安全対策などの工事費用については「精査中だが、経済性は十分にある」と語り、2020年春以降に再稼働させたいとした。 さらに美浜原発のリプレースも「東日本大震災前に自主調査していた。今は中断しているが、気持ちは震災前と変わらない」と踏み込んだ。
前回の発言はこれまでの経過からは考えにくい弱気な発言と思っていたが、その背景には工事費の問題だけではない、次のような悩ましい問題があるようだ。

・原子力規制委員会が今後もいろいろな指摘をすることにより、工事範囲、工事期間、工事費が現在の見積もりをオーバーする可能性がある。工事範囲、工事費については原発の場合、超過することが一般的であり、今までに経験の少ない工事もあることから2020年の3月頃としている工事完了時期が守れる保証はない。すでに田中俊一委員長などから美浜3号機の延長認可に当たり、「これから大きな工事がいっぱい入る。適切に行われるよう、しっかり確認していく」「点検箇所が今の場所だけで大丈夫かも考えながらやっていく必要がある」と言われている。原子力規制委員会も運転期間の延長に関しては、当初きわめてまれなことであるとしており、世間の批判を浴びないようにより慎重な姿勢をとるものと思われる。

・美浜3号機が戦列に復帰するのは早くても4年後であり、それまでに企業の体力が維持出来るかという差し迫った問題がある。電力自由化で関西電力から新電力に切り替えた件数は、今年4月から10月末までに全契約の4・2%に達し、全国平均の3・3%を上回る水準で顧客流出が続いている。原発の比率が全国の電力会社の中で一番大きく、そのために火力発電の燃料費がかさみ電力料金が高いからだ。関西電力は販売電力量で中部電力に追い抜かれそうになっている。料金引き下げが出来なければ顧客流出は止まらない。全国的に電力需要が減少傾向にあるなか、顧客の争奪戦は厳しさを増している。

・関西電力は美浜3号機の再稼働だけでなく、同じ敷地内か周辺で新しい原発を建設するいわゆるリプレースも選択肢に残すとしている。これであれば出力も大きく経済性、安全性も確保されていて、地元の期待にも応えることが出来る。美浜3号機の運転再開が遅れた場合、地元からその穴埋めのための経済的要求が出てくる可能性もある。不透明な要素が多く、苦労の割に報われない美浜3号機の運転期間延長より優れた選択肢という考えもある。

・パリ協定以降、温暖化防止策の強化は世界的傾向で、火力発電所の二酸化炭素排出規制が厳しくなることは間違いない。先進国が石炭火力から離脱する流れのなかで、既にフランスは2023年、英国は2025年、カナダは2030年までに石炭火力を廃止することを発表している。石炭火力の割合の少ないフランス、カナダはともかく、日本と同様の3割台のイギリスが廃止に踏み切ったことで日本への圧力が強まりそうだ。関西電力もそのための対策を打つことが必要となり、原発再稼働への圧力はさらに高まるが、そうなるとますます選択肢が狭まってしまう。再生可能エネルギーなどへの投資もしておきたいところだ。 

・再稼働すれば燃料プールの容量は確実に少なくなり、原発構内あるいは県内に使用済燃料の貯蔵施設を建設しなければならず、そのための地元交渉が控えている。それが順調に進まなければいずれプールが満杯という物理的な理由で発電を続けられなくなる。この問題は再稼働、運転期間延長の前提条件でもあり、同時平行的な開発が出来るのか資金的にも時間的にも心配な点がある。

・反対派がしかけた訴訟による司法との戦いもこれからだ。それぞれのサイトで、また各地域で複数の訴訟が発生するために違った考えの裁判官の判断が示され、それぞれに上告を繰り返すとなると最終的に勝つまでに膨大な時間がかかる。美浜3号機についてたとえ工事が予定通り進んでも、運転再開まで待たされる可能性がある。発電が出来ないまま、原発運営体制を維持しなくてはいけない場合、社内体制維持のほか、メーカー、工事会社、地元企業にいくらかの発注を続けて体制維持をしてもらうための費用が掛かり続ける。

・原発再稼働に熱心な安倍政権がいつまで続くかもわからない。また、磐石であるように見える地元福井県などについても、力強い支援がそのまま続くと
いう保証もなく、これから先、さらなる地域貢献などの要求を出してこないとも限らない。

これだけ問題があるのに、28日になって岩根社長が大きく再稼働に舵を切ったのは何故だろう。おいおいわかることではあるが、推察するに福井県とも絡んで国と関西電力の間でなんらかの約束が出来たのか、運転期間延長のトップバッターとしての関西電力に対して電力各社から強い要請が出されたのか、美浜3号機が再稼働することにしなければ関西電力そのものが近い将来経営破綻してしまうことが判ったのか。いずれにしても他のステークホールダーである株主、債権者、需要家からの要請でないことは確かだ。

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