日本エネルギー会議

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喜んでばかりいられない

福島県沖は親潮と黒潮のぶつかる場所で豊かな漁場であったが、平成23年3月の福島第一原発の事故により、県は平成23年4月から水産物の放射性物質の影響調査を開始。国の基準値を超えた魚種は出荷制限の対象となった。平成24年には早くも福島県沖での試験操業が始まり、もうすぐ5年になる。 
 水揚げ量は年々増加し、平成28年の水揚げ量は、試験操業を開始した24年の10倍以上の約1900トンとなっている。各漁協は水揚げされた水産物の放射性物質検査で食品衛生法の基準を倍にした独自の基準を設け、1キロ当たり50ベクレル以下を出荷している。当初はミズダコ、ヤナギダコ、シライトマキバイの3種だけだった対象魚種は現在、92種に拡大し、カレイなどのブランド魚も獲れるようになった。平成27年4月以降は基準値を超える水産物は出ていない。
 県は来年度から本格的な操業と水産物の需要拡大に向けて魚介類の「鮮度」や「うま味」の成分を調べた評価を商品に表示するアイデアを実行する。放射性物質の検査結果を示すことで安心してもらうだけではなく、新たな手法で水産物の魅力を知らせる。昨年秋には、津波で被災した相馬市の松川浦漁港の主要施設も再建されて、漁業の復興を喜ぶ漁業関係者や地元住民の姿が見られた。
 このような状況を見るにつけ、心配なのはこの復興ぶりが福島第一原発の構内にタンクで保管中の放射性物質トリチウムが溶け込んだ80万トンの廃液の処分を難しくしていくことだ。この5年間、国内各地の市場から冷たい仕打ちをされ続け風評の怖さが身に沁みている地元の漁業者にとって、これらの廃液はいくら薄めても汚染水であり、大量放出は間違いなく風評被害の原因になると考えている。
 政府の汚染水処理対策委員会が「海洋放出が最も短期間に、低コストで処分できる」とする試算を明らかにしたことなど、海洋放出やむなしの世論づくりが行われているのではと漁業関係者は疑心暗鬼になっている。現在、地下水バイパスやサブドレンを通じてくみ上げた地下水を海に放出する際の基準値が漁協との取り決めで1リットル当たり1500ベクレルに設定しているため、その基準を大きく上回る濃度の水の放流には相当の抵抗が予想される。何故いつでも我々漁業者が苦渋の選択をしなくてはならないのかと悩むはずだ。
 漁業の復興が進めば進むだけ、海洋放出のハードルがどんどん高くなるという矛盾を知ると、漁業の復興を喜んでばかりいられない複雑な気持ちになる。

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