日本エネルギー会議

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理性的な考察

日本の原子力開発に外交部門で貢献されたK氏から、学会の集まりでの閉会挨拶「福島事故の悲劇を乗り越えるべき時」を文章化したものをメールで送って頂いた。
 それによれば、福島事故の後遺症は未だ癒えず、反原発ムードが拡大しているが、エネルギー自給率の低さは日本の「アキレス腱」であり、温暖化対策上化石燃料は益々使いにくくなる。再生可能エネルギーはクリーンであるが安定電源ではないため、原子力発電は日本にとって必要不可欠。これは好き嫌いの問題ではないとされている。広島・長崎の悲惨な洗礼を受けた日本では、そのトラウマから抜け切れず、人々に素直には受け入れられないものだが、そこを理性の力でなんとか理解し乗り越えなければ、資源小国日本の将来は暗いとも書かれている。
 さらに、福島事故以来、すっかり原子力恐怖症、原子力嫌いになった日本で、このようなことを言えば、「上から目線だ」「庶民感覚が足りない」「電力会社の回し者だ、御用学者だ」という批判や中傷を浴びるかもしれないが、それは覚悟している。私たちの意見がどうしても納得できない、反対だという方は是非直接私たちにご連絡ください。二項対立の不毛な議論を避け、少しでも建設的な議論の輪を広げていきたいと願っていますと挨拶は結ばれている。
 誠にそのとおりである。私も現役時代、PA活動中に感情的な反対や二項対立に悩まされ続けてきた。好き嫌いで判断されると説得は極めて難しく、説明すればするほど相手は離れて行ってしまうようなことを何回も経験した。当時はそのような強硬な反対派を相手にするのは労力の無駄、数の多い中間派を賛成派に取り込む方が効率的だと思っていた。感情が理性を上回り、結果として時代を逆戻りさせ、人々を混乱の中に投げ入れる例は、歴史上も数多く存在し、最近も英国のEU離脱、アメリカ大統領選挙などに見られる。
 予断を持たない人にきちんと説明すれば、原発の安全性、必要性は高校生でも正しく理解してくれることは実績が示している。ただし説明の際には、原発の根本的な問題点についても原発推進側は理性的に考察し、その結果を包み隠さず説明することが大切ではないかと最近は考えている。
 原発の特徴の一つが数ある電源の中で抜群に効率が良いことだ。これは物理的特性からきていることで、比較的小さな装置とわずかな量の燃料で100万キロワットもの電力を安定して出せるのは原発だけであり、これが発電コストの安さに繋がっている。小出力の原発ではその特性を生かしきれず、原発は必然的に大型化する。しかし、その大出力が長所であるとともに短所ともなる。強力なエンジンを搭載したレーシングカーが強力なブレーキを必要とするように、何かあった場合に原子炉を安全に停止するための信頼性のある装置が必要だ。また、停止後の大量の崩壊熱を取り除いてやらなければ核燃料が溶けてしまい、何万人という住民が避難する福島第一原発の事故のようなことになる。 
 崩壊熱を取り去るには大量の水を循環させるポンプとモーター、熱交換器、配管や弁がきちんと機能する必要があり、それらは電気や圧縮空気を動力としているので幾重にも電源を確保しておかなければならない。電源がなくとも自然に崩壊熱が除去出来る仕組みを福島第一原発は小規模ながら備えていたがこれをうまく活かせなかった。さらに大掛かりな自然冷却式の原発は開発中である。ということは現在の原発の設計や運転には克服すべき重要な課題があるということだ。
 大出力であることは発送電を含む電力システムとして万一の停止に備えてバックアップ電源も大容量のものを必要とすることも事実だ。四国電力は伊方原発建設と同時に大型揚水式ダムを建設している。バックアップ電源の必要性は出力不安定な再生可能エネルギーだけのものではないのだ。
 もう一点、説明しておかねばならないことは放射性廃棄物の問題だ。火力発電(バイオマスを含む)も大量の灰や汚れた空気、それに温暖化ガスとなる二酸化炭素を大量に環境に排出する。太陽光発電パネルも寿命がくれば廃棄物となる。だが、原発の運転や廃炉から生ずる高レベルの放射性廃棄物は半減期があるものの、強い放射線を出すため長期的に管理が必要である。外部に漏れ出さないように厳重に閉じ込める必要があるが、その技術は目処がつき始めたとは言え、実際に処分された例はほとんどない。技術的に克服されても社会的に受け入れられるかは不明なのが現状だ。したがって地下埋設して長期間管理する費用は不明である。放射能の半減期を短くする方法もまだ理論上のものに過ぎない。 
 火力発電の廃棄物のうち二酸化炭素については回収や貯留・活用に関して方法を開発中であり費用もまだ確定していない。三菱重工業を中核とする日米の連合体が建設したテキサス州の火力発電所で商業用のプラントが先月ようやく操業しはじめたところだ。(それにかかる多額の費用は抽出した二酸化炭素を石油掘削井戸に吹き込んで石油生産を数十倍にすることで賄うらしい)しかし、人間の生活圏からの切り離しや超長期管理の必要はなさそうなので、原発の廃棄物の費用の方がより不確定要素が多い。単に原発の電気が安いと主張するだけでなく、現在示されている発電コストはある条件下での暫定値であり、実績でもないことも認めなければならない。
 原発の推進について理性的判断を求めるのであれば、こうした事情も明らかにした上で、原発の必要性、有用性を説き、人々が必要とする電力を得るための他の手段より優れていることをしっかりと説明してみせる必要がある。その際も、電源間の優劣はあくまで比較の話とするべきであって、原発が一番安全で経済的だと言い切ってしまうと、安全神話となって自らを縛り動きがとれなくなる。
 東京電力から避難している世帯に毎月送られてくる福島第一原発の状況に関する資料を見ると、おおむね順調に廃炉が進んでいるという内容で占められていて、事故や計画の失敗、これから起きる可能性のある危険などについてはあまり触れられていない。逆にメディアが廃炉に関して伝える内容は事故や失敗、これからの危険性などがほとんどだ。そうなると避難している住民は東京電力からの情報をあまり信頼しなくなる。敗退を転進とする大本営発表とまでは言わないが、読んだ人は資料の内容を東京電力に都合の良いものだけを流していると思ってしまい、何か隠しているのではと疑いを持つ可能性さえある。
 長所も短所も、成功も失敗も危険性もバイアスをかけずに伝えることで発信元が信頼されるのであり、東京電力のやっていることはまだまだ事故以前のやり方から脱皮出来ていない。(東京電力の後に控えている国が、発信内容を検閲しているようであれば論外であるが…)当事者である東京電力が直接発信するのではなく、福島県の専門委員会などが作成し発信するものであれば、住民の情報に対する信頼はもう少し高まるのかもしれない。
K氏の閉会挨拶は「二項対立の不毛な議論を避け、少しでも建設的な議論の輪を広げていきたいと願っています」と結ばれているが、そのためには双方ともにより理性的でなければならない。

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