日本エネルギー会議

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帰還しない理由

 今年の春、福島県では多くの町や村で避難区域の解除があり、住民は6年ぶりにようやく我が家に戻れることになった。ところがその帰還率はどこも芳しくなく、このままでは復興の先が見えてこないと各自治体が悩んでいる。
 帰還した住民の数や帰還率はいろいろ報じられているが、本当に元の家に戻って住んでいる住民はさらに少ないのが実態だ。昼間はインフラの工事関係者や除染作業員がたくさんいて賑やかだが、夜になって灯りのつく家はちらほらだ。避難先と行ったり来たりしている、家族のうち仕事の関係で父親1人だけで戻っている、週末だけ帰っているなど各家庭の事情があるようだ。
 戻らない理由は現在働いている職場が遠くなってしまう、友達のいる学校を変わりたくない、病気治療のため通院しなくてはならない、高齢で息子や娘の世帯と一緒でないと生活が困難などだが、そのために避難先に我が家を新築してしまったことが帰還に踏み切れない大きな理由だ。
家族の都合で家を建てたのだが、今度は家を建てたことが足かせとなっている。いっそのこと家を売るか他人に貸して元の家に戻ればよいのだが、せっかく新築した家をまた手放せば損をするのが目に見えている。元住んでいた自治体はインフラの整備など懸命の努力を続けているが、生活の利便性は避難先の都市部に敵うものではない。
 東京電力の行った不動産賠償のやり方も帰還しない理由に挙げなくてはならない。当初、浜通りにあった家の土地や建物の評価額によって賠償額を決めたが、その金額では地価の高い中通りの都市部では思うような土地は買えず、震災後建築費も上がっているため建物についても割増をしてほしいとの強い要望が避難した住民から出され、東京電力は賠償額をかさ上げした。その支払い方はそれぞれの家に対して土地と建物の合計額に各戸別の限度額を提示し、その限度額内であれば支払うとした。古い家は評価額が低くなってしまうが、その部分も補正がされ避難先で家が取得出来るような配慮がされた。
 例えば土地と家屋の評価が合計3千万円だった場合、3千6百万円を限度額とし、土地と家屋の割合は自由とした。土地と家屋を2千5百万円で取得した場合、その領収書を提出すれば2千5百万円が支払われるのみ。(実際には見積書を提出し、借り払いを受けて後に領収書を提出して精算する)
 もし、土地と家屋を4千万円で取得すれば、限度額の3千6百万円が東京電力から支払われ4百万円が本人負担となった。要するに実際に賠償金を使ってしまわないと賠償が支払われないということであり、誰もが限度額いっぱい使って立派な新しい家を取得しようとした。これが郡山市やいわき市での土地の高騰と豪華な家の建設ラッシュに火をつけた。避難者が一旦確保した土地を他の避難者がより高値で買い取ることさえ行われた。多くの避難者が土地高騰によっていわき市に家を持つことを諦め、いわき市の郊外あるいはもっと遠い地域に移住を決めた。
 さらに今回の賠償で常識と違ったのが、本人宛の施工業者の領収書だけで賠償金の支払いがなされ、図面はおろか購入後の土地や建物の登記が本人名義となっているかについても東京電力が確認を求めなかったことだ。そのため、取得した広い土地の半分に家を建てて賠償を受けた後、残りの半分の土地を他人に売却して現金化し、将来のための貯金に回すことさえ可能だった。話が横道に逸れたが、せっかく避難先に新築した立派な家を手放してまで元の家に戻ろうとする人はいない。
 東京電力がこのような形で不動産の賠償を始めた時点で、避難者の帰還しようとする意欲は大きく削がれてしまった。

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