日本エネルギー会議

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原子力委員会の「基本的考え方」(5)

 今年、新しい原子力委員会が発表した報告書「原子力利用に関する基本的考え方」を読みなおしてみると、いくつかの疑問が浮かんだので、シリーズでその内容を紹介している。「基本的考え方」には次のように書かれている。
  
 原子力関連機関に継続して内在している本質的な課題
 我が国の原子力利用では、1990年代以降、様々なトラブルに伴う長期間の運転停止や計画の遅延等が生じ、国民の不信・不安を招くとともに、2011年3月に東電福島原発事故が発生し、国民生活に深刻な影響を及ぼした。東電福島原発事故の反省のみならず、我が国における原子力利用の閉塞を以前からもたらした、原子力関連機関に内在する本質的な課題を解決することが不可欠である。

 「様々なトラブルに伴う長期間の運転停止や計画の遅延等が生じ、国民の不信・不安を招く」とあるが、国民が不信・不安になったのは原発の定期検査などにおいて隠蔽、改ざん、偽装などの不祥事が続いたためである。
 それが露見することで、従来理解のあった地元を含め、電力会社の体質や監督官庁の見逃しに対する国民の不信・不安となったのであり、その反省も十分でないことを国民が不満に思ったのだ。長期の停止や計画の遅延は単なる結果である。
 あえてこのような書き方をしたとすれば、原子力委員会が国や電力会社に不必要な遠慮をしたことになる。

 安全文化に国民性が影響を及ぼすという指摘があるように、国民性は価値観や社会構造に組み込まれており、個人の仕事の仕方や組織の活動にも影響を及ぼす。我が国では、特有のマインドセットやグループシンク(集団思考や集団浅慮)、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに強制される同調圧力、現状維持志向が強いことが課題の一つとして考えられる。
 また、我が国では、組織内で部分最適に陥り、情報共有の内容や範囲について全体での最適化が図られない結果として必要な情報が適切に共有されない状況も生じており、組織内外を問わず、根拠に基づいて様々な意見を言い合える文化を創り出す必要もある。
 このような従来の日本的組織や国民性の特徴が原子力の安全確保のみならず原子力利用全体にも影響を及ぼしたとの認識の下に、それぞれの原子力関連機関が抜本的な改善策を検討することが必要である。あわせて、原子力利用に求められる高い透明性や説明責任について、真摯に対応することが必須である。

 安全文化と国民性についてのこの箇所も内容に問題がある。福島第一原発事故の国会事故調の黒川委員長が「メイドインジャパン型の災害」と評したことに対して外国メディアからは「今回の事故原因を国民性や文化のせいにするのはおかしい」と厳しい批判があった。
 建設、運輸、製造など、各分野において日本の安全水準は世界トップクラスであり、福島第一原発の事故に対して各国は「あの日本で原発の大事故が起きるとは」と驚いた。
 ここでは、問題は電力会社や原子力関係組織において「暗黙のうちに強制される同調圧力、現状維持志向が強いこと」「組織内で部分最適に陥り、情報共有の内容や範囲について全体での最適化が図られない」「必要な情報が適切に共有されない」「組織内では根拠に基づいて様々な意見を言い合えない」傾向が定着していたことであると指摘しているが、この点は私の経験からも頷けるところが多い。
 もちろん電力会社の間でも温度差はあるが、ここは国民性などとせずに、原子力関係機関に標的を定めておく必要がある。
 原子力委員会の「基本的考え方」では、それぞれの原子力関連機関が抜本的な改善策を検討することが必要であるとしているが、そのようになった原因は書いていない。第5章 重点的取組とその方向性においても次のように書かれているに過ぎない。
  
 東電福島原発事故の発生を防ぐことができなかったことを真摯に反省し、事故の反省と教訓を活かし、このような事故の再発防止のための努力や、更なる安全性の高みを追求することが求められる。今後の原子力利用に当たって、原子力委員会としては、以下の点について留意することが必要であると認識している。
 まず、原子力関連機関及び関係者は、社会からの信頼回復を図ることを大前提に、原子力利用を改善していく必要がある。
 そのためには、「3.原子力関連機関に継続して内在している本質的な課題」で述べた課題について、現場の実態も的確に把握し、国際的な知見や経験を利用して解決を図り、我が国としての安全文化を高水準に築き上げるとともに、国民への説明責任を果たしつつ成果を国民に還元するという視点で環境変化に適応することが重要である。
 その際、実現可能性(feasibility)の検証・確認を的確に行い、限られた資源の中で、効果的かつ効率的な原子力利用を進めていくべきである。

 原子力関係組織がなぜこのような状態になってしまったのか、その原因を書く必要がある。例えば、現状維持志向の強さは、内部の居心地が良すぎることがひとつの原因である。
 組織内の部分最適に陥っているのは、全体を見なくてはいけないトップが一部門の主張ばかり聞くからである。その裏には原子力ばかり突くメディアの問題もあるかもしれない。必要な情報が適切に共有されないのは、情報の価値がわからないのと情報の独り占めによるものだ。
 こうしたことは内部にいればすぐに気づくことだが、内部でそれを言い出すのは難しい。原子力委員会こそ客観的にこうした問題を掬い上げて指摘する役割りがあるのではないか。
                   (このシリーズは今回で終了します)

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