日本エネルギー会議

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破綻回避(1~10)

1.はじめに
 日本における原子力開発は国と電力会社による破綻回避の歴史でもあった。福島第一原発の事故を経た今も破綻回避は続いている。
 本論では、原子力の開発当初からどのような破綻回避が行われてきたか実例を紹介し、続いて国や原子力関連組織は何故、破綻回避をせざるを得なかったのかを解明する。また、何故このような回避が可能であったかその背景に迫ってみる。さらに、この破綻回避は日本の原子力開発をどのように変質させたかを考察する。  
 個人や組織にとって行動目的や生存条件が破綻の危機に遭った場合、回避行動を取るのは当然なことであり、自然界でも種の保存のために常に行われている。原子力開発の場合、国や電力会社が行った破綻回避は組織的であり、国家の存続と繁栄に資する原子力開発を行うという本来の目的とともに、原子力開発を行う組織などが存続発展することも目的となっている。もし、後者のために前者が主張されるようなことがあれば、それは本末転倒であろう。
 組織的な破綻の回避は歴史でも学ぶことが出来る。旧日本軍の戦時中の行動も破綻の回避の連続であった。旧日本軍は自らが戦端を開いた戦いを止めることが出来ず、国民に対して敗走を転進と偽りながら破綻回避を続けた。領土も戦争遂行能力もすっかり失いながら、建前上は破綻を認めないままに終戦を迎え、連合国の手で一方的に武装解除され、領土は四つの島だけになってしまった。
 権威を守るため前言を取り消すことが出来ない。前任者との信義関係を失うことや責任追及を恐れ、権益を守るとともに自らの居場所がなくなることを恐れる。自分たちの抱いた夢を捨てきれず、敗北の事実すら認めようとしなかった。旧日本軍が破綻を回避したために、どれほどの国民や兵士、そして敵兵や戦禍にあった国々の人々に犠牲者を出したか。破綻回避はその後の見通しを持って周到に考えて行われるものならば良いが、旧日本軍のように理性を欠き、損害や犠牲を無視して行われるのであれば未曾有の悲劇となる。
 破綻の回避はその理由が合理的なものであり、かつステークホールダーに対して状況や理由が事前に明確に示されるべきである。原子力開発においても、破綻回避を行う際には、その理由を明確にして合理的な判断であることを示す必要がある。

2.当初からの破綻回避
 原子力開発当初からどのような破綻回避が行われてきたか。まず、欧米からの商業用原発技術の移転を目的として全国の電力会社と重電各社をはじめとする経済界が協力して日本原子力発電(以下原電)を設立し、我が国初の商業炉である東海発電所をイギリスから導入、続いて初期の軽水炉をアメリカから導入して敦賀発電所を建設した。東京電力や関西電力はその完成を待たずに福島原発と美浜原発の建設を始めたため、原電は存在理由を失う危機に陥った。
 しかし、原電は解散させず、パイオニアとしての性格を持たせることで存続させて戦略の破綻を回避した。東海原発は完成に手間取り建設費が計画を大幅に上回ったが、東京電力は通常の発電単価より高く電力を買取り、原電の破綻を回避した。この裏には電力会社間の取引と行政に誤謬を認めない通産省などの役人、電力会社首脳の存在があったことは言うまでもない。
 原電は事故や軽水炉の初期故障などで累積赤字を続けたが、受電会社など電力会社が債務の裏保証をするなど経営を破綻させなかった。その後も原電を存続させるために、経済産業省や電気事業連合会は高速増殖炉の商業炉建設の主体、カザフスタンでのウラン資源開発やベトナムに対する原発の売り込みなどの役割を与えるなどして支えてきた。
 福島第一原発の事故後もすべての原発が停止して、特に原子力専業の原電は収入の道を絶たれたが、受電各社が基本料金を支払い続けることで原電の破綻を回避した。ただ、原電の子会社がデータ改ざん事件を起こした際は、その子会社は救済することなく破綻させている。
 国は商業炉建設に伴い原発製造技術の国産化を図るため、当初から国内の原子炉メーカーを日立、東芝、三菱の3グループに絞り、富士電機を東海のガス炉のみの例外扱いにして、住友グループにはついに軽水炉原子力グループとしての参入を認めなかった。
 これは過当競争になり国産の原子炉メーカーが共倒れになり破綻することを恐れたかである。それは現在まで続いており、今般の東芝の経営危機に際しても、原発技術温存を目的の一つとして東芝救済に乗り出している。
 原子炉メーカーの系列企業を含めた企業集団は、人材を確保育成するために常に安定した受注と自社の研究開発による技術力の向上が必要であり、電力会社は電力共同研究を通してあるいは直接的な発注で巨額の原発の技術研究開発費を毎年支出し、メーカー側の人材や技術力が破綻しないようにしていた。また、大学の原子力関連の研究室に対しても国立大学を中心に研究委託を続けて、人材確保の面での破綻を回避しようとしていた。それは学部や研究室を守る必要があった教授たちの利害と一致した。
 原発開発が進むにつれて、新たな立地を見つけることが困難であることから電力会社が立地難を回避する目的で国は原発立地に関する電源三法交付金を火力発電の場合と比較して格段に増額し、毎年のように内容の見直しを行い、運用を地元自治体の要望に沿って変更してきた。明らかに原発開発計画が行き詰まることを回避するために行われたことだ。
 電力会社も立地難を回避するために既設のサイトへの増設と1機当たりの大出力化を図って原子力開発長期計画が破綻を来さないようにしてきた。30万キロワット級、50万キロワット級、80万キロワット級と次第に大型化し、1970年代末頃には東京電力と関西電力が、1987年には中部電力が、1994年には九州電力でも110万キロワット級の大型原発を建設している。
 もんじゅのナトリウム漏れ、動燃東海再処理工場の爆発火災、JCО臨界事故が起きたが、その都度原子力開発計画に影響しないように原因などについてできる限り原発と切り離す対応が取られた。
 東京電力のトラブル隠し、隠蔽工作、データ改ざんなど一連の不祥事は大きな影響を与えると見られたが、相談役、会長など首脳陣が一斉に退陣することで(肩書きはなくしたがその後も権限は保たれた)、実際の体制や計画が破綻しなかった。
 一番大きな破綻回避が見られるのが核燃料サイクルで、当初、使用済み燃料の再処理は国内で出来なかったため、使用済み燃料をキャスクに入れイギリスやフランスに海上輸送して海外再処理をして破綻を回避してきた。日本原燃が六ヶ所村に建設している再処理工場の完成が遅れ、また、もんじゅがいっこうに運転を出来ずにプルトニウムの消費が出来なくなったため、プルトニウムが国内外に貯まり始めた。
 そこで諸外国から疑念を持たれるプルトニウム貯蔵量を減らし、核燃料サイクル政策の破綻を回避するために、それまで関心の薄かったプルサーマルが突然浮上して各電力会社がその採用を次々に表明した。それまで電力会社が拒否し続けてきた電源開発の原発建設を、フルMOX原発であることを条件に認め、これが大間原発になった。これも余剰プルトニウムで核燃料サイクル計画が行き詰まらないためだ。
 また、各原発の燃料プールの収納能力を高めるリラッキングと呼ばれる改造も行われ、使用済み燃料が溢れるのを回避した。それだけでは使用済み燃料処理が出来ず、核燃料サイクル計画が破綻するので、各社は中間貯蔵施設を建設して使用済み燃料が溢れて発電がストップする事態を回避することにし、日本原電が東海原発構内に東電が福島第一原発構内に空冷式の中間貯蔵施設をそれぞれ建設したが、それでも貯蔵しきれない可能性があったため、青森県のむつ市に両社が共同出資して大規模な使用済み燃料貯蔵施設を完成させた。
 六ヶ所村の日本原燃の再処理工場の貯蔵プールも満杯に近い。海外再処理で返還された高レベルの放射性廃棄物の固化体も50年後には県外に搬出するという約束をして、とりあえずの保管場所としたがこれも破綻回避だ。
 関係者は破綻回避の仕事に忙殺されるようになり、本来やるべき原発の安全性の向上などに手が回らなくなるのである。  

 「原子力政策大綱」に書かれた内容を実現するため、2006年に8月に決定された「原子力立国計画」をつくったことも破綻回避のひとつだ。国内で原発の新増設が進まない中、原子力発電比率の中長期的実現、核燃料サイクルの着実な推進など従来路線を踏襲するとともに、国が原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組み作りへの積極的関与をするとした。
 具体的には途上国などへの原発売り込みを含めた海外展開である。これまでの原子力産業の規模と技術力を維持するため海外に活路を求めた打開策で、当時は関係者から閉塞状況から抜け出す画期的な方策として大歓迎されたものだ。
 これに乗って日立、東芝、三菱重工の原子炉メーカーは国や電力会社の支援の下、一斉に海外の建設計画に乗り出すことになった。しかし、福島第一原発の事故後の原発の安全対策の強化がコスト高を招き、海外での原発建設計画の遅延、計画の撤回などが続き日本メーカーは3社とも将来の夢どころか逆に重大な経営問題を抱え込んだ。
 なかでも名門ウェスティングハウスを買収し世間の耳目を集めた東芝は、国内での原発事業の誤算や海外での損失の隠蔽に走り、株式一部上場廃止にまで追い込まれた。現在、国は原子力立国計画に協力した東芝を救済するために、一番の稼ぎ頭の半導体事業売却の手伝いまでして、不採算の原因である原子力事業を守ろうとしているが、これも原子力立国計画など従来の政策の破綻を指摘されたくないからだろう。
 また、日立や三菱重工の海外案件も不安要素があり、これが将来、メーカーの屋台骨を揺るがすことになった場合、国が救済することに関して東芝が前例となるとも考えているはずだ。
 福島第一原発事故後、東京電力は実質的に破綻したのだが、国はさまざまな理由をつけて東京電力を実質国有化し、国からの資金投入、各電力からも支援させることで廃炉、賠償、除染などが出来るような枠組みを作りあげた。
 福島県全体での広範囲な除染が行われた結果、放射性物質を含んだ大量の土壌が発生し、この処分先を福島第一原発のお膝元である大熊町双葉町にまたがる土地に計画したが、地権者の同意が思うように進まず(現在でも同意は全体の3分の1)、中間貯蔵施設にはわずかな量しか搬入できていない。これも富岡町、浪江町などを中心に広大な汚染土壌の仮置き場を作って巨額の賃貸料を支払うことで除染計画の破綻を回避している。
 さらに、大胆な破綻回避は福島第一原発の廃炉事業だ。福島第一原発の事故処理費用の見積もりは大幅に見直され、今や当初見積もりの2倍以上になっている。当初の見積もりは工事内容がほとんどわからない時期であったにせよ、最低限の見積もりをすることで国民や住民への衝撃を和らげる効果を期待できた。これも一種の破綻回避だ。このやり方は今後も踏襲されるだろう。
 
3.破綻回避を可能にした背景
 ここで、破綻回避が可能だった背景を論理的視点、政治的視点、経済的視点から整理する。まず、論理的視点からすれば、何らかの犠牲を払っても原子力開発を続ける必要があるとの主張が説得力を持つ以下のような状況があった。

・戦前戦後を通してエネルギー資源のない日本が海外からの輸入資源に全面的に依存している状況は危ういものであり、現に太平洋戦争のきっかけとなったABCD包囲網と二度の石油ショックを経験している。原子力は準国産のエネルギーであり、エネルギー安全保障上も多くの利点を持っている。そのための原子力開発であり、途中で旗を降ろせばまた以前の危うい状態に戻ってしまい、国際収支、電力の安価で安定した供給の面でも問題が生ずる。

・経済成長に伴い大きくなった電力需要に対応するには出力が大きい原子力に依存するしかない。

・国際的約束である温暖化ガスの削減には二酸化炭素を排出する火力を発電を減らさなければならないが、それを代替する電源として再生可能エネルギーはまだ実績は乏しく、原子力に期待する以外に道はない。

・必要な敷地の小さいこと、コストに占める燃料の割合の少ないこと、燃料購入先の分散と安定、燃料の運搬や備蓄の容易なこと、出力が安定し発電効率がよいことなど原子力は他の電源にない長所を備えている。

・原子力の利点を最大限に活かすことが出来るのが核燃料サイクルであり、ウラン資源も乏しい日本は当然それを活用することが必要である。また、核につながるプルトニウムを消費することを諸外国から期待されている。

・原子力開発は時間がかかるものであり、また今後の研究開発に期待するところが多いため、課題の先送りや代替案採用をしても実際にすぐに困ることにはならない。また、先送りすると将来行き詰まることを誰も証明出来ない。

・これまで数十年かけて人と物に行ってきた投資の累計は巨額なものであり、撤退はそれらを無駄にしてしまうので得策ではない。

・日本の工業水準は高く技術は世界トップクラスであり、原子力の安全性については設計上も運用上も十分に確保され、小さなトラブルはあるが大事故は起きない。

 こうしたエネルギー安全保障上と温暖化対策上の原子力の必要性などに対して、反対派をはじめ誰も原子力推進路線を止めても国が存続出来るとする説得力のある主張が展開出来なかった。さらに原子力開発が進むにつれて電力供給に占める割合が3割に達し、原子力開発路線を破綻させることそのものが大きなリスクになって、破綻回避をせざるを得ないとの主張がますます説得力を持つようになった。  

 論理的視点に続き、政治的視点から破綻回避が続けることが出来た背景を整理すれば、原子力開発は何らかの犠牲を払ってでも続けるべきことであったのである。

・戦後の原子力の平和利用は、アイゼンハワー大統領のアトムズ・フォー・ピース宣言をきっかけに準国産エネルギー確保政策としてスタートした。それは政権与党、通商産業省、文部省の官僚組織と電力会社・重電メーカーを中心とした原子力産業界、国の研究機関・国立大学などによって担われることになったが、その裾野は広く、関連する製造業、建設業、金融業、商社、関係諸団体、一部マスメディア、一部労働組合なども含まれ、原子力開発推進という目的で繋がった一大政治勢力であったため、必要がある度、立法、予算配分、官庁の行政指導、地元自治体の了承において破綻回避に協力させることが出来た。  

・平和利用の中心となった原発の導入は自前の技術を積み重ねるのではなく、アメリカから急ぎ商業炉を輸入し国産化していく手法が取られた。核に関わる技術であるため、アメリカなどが主導した核拡散防止の枠に入ることで常に国際政治との関わりを持ち続けた。特に国内再処理は非核保有国としては唯一日本だけが認められたものであった。国際的には「再処理はするが不要なプルトニウムは保有しない条件」が原子力開発計画の破綻回避の際の政治的判断に繋がった。

・原子力開発推進の下に結集した上記の政治勢力は、特に原発や関連施設の立地のための電源三法交付金制度の創設と拡充、研究開発への国費投入、事故トラブル後の早期運転再開に向けての地元自治体の了解取得などに政治力を発揮して破綻回避を実現することが出来た。

・国策民営の旗の下で、電力会社は国民に対する原子力理解活動を関係諸団体を通じて全国的に展開し、また直接立地地域などに浸透させることによって世論の過半と立地地域の住民が原子力開発に賛成することに成功を収めつつあった。

・政党と関係官庁は国のエネルギー基本計画の中に原子力をしっかりと位置づけ、さらに大綱や長計によって裏打ちするなど原子力推進を国是とすることで自らの権力基盤の強化にも役立たせていた。具体的には政党に対しては政治献金と選挙の際の組織票、関係官庁に対しては監督権限、予算配分と執行権限、天下り先の確保などである。こうしたメリットは原子力政策が破綻を回避することで守られていった。

 原子力開発推進の政治勢力に対して、反対の立場の政治勢力も同時に存在したが、その力が発揮されることはあまりなかった。そもそも原子力開発が選挙などの争点になることは立地地域の自治体の首長選挙以外にはほとんどなく、選挙の争点にはならないと長いあいだ言われてきた。
 長期にわたって政権を取ってきた自民党は産業界を背景に一貫して原子力開発推進政策を取り続け、代わった民主党も電力や電機の労働組合を背景に同じく原発推進で、一貫して原子力開発に反対を訴えてきたのは共産党など少数の野党だけであった。わずかな修正はあるものの、こうした政治情勢によって原子力開発の破綻回避は常に正当化されてきた。

 論理的視点に続き、経済的視点から破綻回避が続けることが出来た背景を整理する。

・破綻回避には巨額の投資や費用の支出をともなうことが多いが、それらは電力会社という民間企業でありながら法律によって許された地域独占と、最大の収入である電気料金を経済産業大臣の認可によって決められるという仕組みによって支えられてきた。料金を決める仕組みは、総括原価方式と呼ばれるかかった費用はすべて原価に組み入れることが出来るものであった。

・料金はその地域の電力会社からしか電気を購入出来ない消費者から徴収される。総事業費14兆円にも達する六ケ所村の再処理工場のごとき巨額な費用も広く全消費者に負担させることで、一世帯からみれば電気料金のほんの僅かな上昇で済ませることが出来た。
 また、料金請求書ではその内訳は窺い知れず、財務諸表に表示された内容でも個別の根拠は示されずその分析にも限界があり、料金の根拠は極めて透明性のないものであった。電力会社が持っていた地域独占という消費者に対する絶対的な力と、国策として原子力開発を進める所管官庁による料金認可というやり方は電力会社にとってこれ以上ありがたいものはなく、そこに経済的に破綻回避が容易であった最大の理由がある。

・発電において原発は他のいかなる電源より優先的に扱われていたが、事故などで停止すれば、火力発電などでカバーをしている。また、原発の緊急停止に備えて、旧式なものも含め火力発電所をスタンバイさせているが、そのための費用もすべて電気料金で回収している。
 商業用の発電所であれば、何年にもわたる長期停止は電力会社の存立にかかわる問題であるが、福島第一原発の事故後に全原発停止で収入がない日本原電がいまだに存続しているように原発の場合はすべて救済されてきた。

・破綻回避には巨額な長期投資が必要となるが、それは政府系金融機関、大手都市銀行など金融機関からの長期の融資によってまかなわれてきた。金融機関は電力会社の巨大な資産と地域独占、総括原価方式により回収が確実なこと、万一の場合は国が支援するであろうことを前提に融資を続けたため、金融機関にとって電力会社は常に最優良貸付先であった。

・電力会社は株式会社ではあるが、その株の多くは金融機関によって保有されていた。電力会社は経営が安定し、高額配当のある金融機関にとってなくてはならない魅力的な出資先であった。そのため、原子力開発において破綻の恐れがあった場合も、株主総会での株主からの経営陣への追及、反対動議は常に大株主による議決権の行使という形で逃れることが出来ていた。
  
         
4.背景の変化
 これまで論理的・政治的・経済的これまで破綻回避が続けることが出来た背景を見てきたが、その後の変化と、その結果破綻回避が困難になりつつある現状について見てみよう。

 理論的視点からは
・主力の火力発電の燃料(天然ガスと石炭)はアメリカのシェールガスなどによって資源輸入先の分散化が進んだため、エネルギー資源供給不安定の根拠が揺らいだ。

・福島第一原発の事故以降、全発電量に原子力の占める割合が低くなったため、脱原子力のハードルが低くなった。諸外国は脱原発の国と拡大の国に二分されるようになった。

・電力需要が10年前から減少傾向にあり、省エネや人口減少で今後も減少するため、大型電源を建設する必要性が少なくなってきた。東西の周波数変換設備、北海道本州の連携線強化など供給の安定性も増している。

・太陽光発電と風力発電が世界中で急速拡大し、発電コストが下落。原発の発電コストは安全対策追加投資で上がり続けている。

・福島第一原発の事故後、石炭火力が増加し温暖化ガス削減が進まなくなっている。先進国は石炭火力廃止の方向になり、原発の必要の根拠が補強された。

・もんじゅの廃炉と大間原発の完成延期で溜まったプルトニウムは軽水炉のプルサーマルによるしか消費出来ず、諸外国の懸念が強まる可能性がある。燃料サイクルによる半永久的な燃料確保は実現しそうもなくなった。

・長期の運転停止や建設のないことで原子力メーカーや関連産業は人材や製造設備が急速に弱体化している。

 政治的視点からは
・福島第一原発の事故後、意識調査で国民の過半数が脱原発の意向を示しており、政策的に無理やり原子力をテコ入れすることはやりにくい状況になっている。与党は引き続き原子力推進方針であるが、エネルギー基本計画に「原発を出来るだけ少なくする」と書かざるを得なくなった。

・原子力規制委員会が設置され、新基準による厳しい審査を行うなど法律的にも規制による強化が行われた。

・脱原発を唱える元首相も現れ、知事などが原発の再稼働や廃棄物問題に対し批判的な態度を取る自治体首長が珍しくなくなった。

・原発を巡る裁判結果で運転を停止せざるを得ない例が出てきた。

・東京電力や電気事業連合会の力が弱まり、大手メディアも推進、反対に二分されている。

・原子炉メーカーや関連企業は建設工事やメンテナンス工事が減り、国や電力会社が支援をしているが、その勢いは衰えつつある。

・余剰プルトニウムに対する諸国からの懸念は大きくなりつつある。

・途上国への原発輸出の試みは頓挫し、輸出への批判が強まっている。

 最後に経済的視点からすると
・電力自由化が実施され地域独占がなくなったため、契約先を新電力に変更した顧客は全体の1割に達し、電力会社間でも顧客の争奪が始まり、発電コストは直接収支に影響することになった。既設の原発は発電コストが安いが、新規に建設すればその発電コストが高く競争力はない。

・新たな知見が出れば対策の水平展開が求められる。今後の追加投資規模が不明で、電力会社は原発保有によるリスクが高くなり、税金投入がなければ経営上、原発を建設し維持することは困難になりつつある。

・長期にわたる原発の停止と改修費用により徐々に電力会社の体力は衰えつつあり、事業が進まない日本原燃や日本原電などを支えるだけの財政的余裕を電力会社が失いつつある。

・金融機関も電力会社が抱えるさまざまなリスクを注視するようになり、政府の保証なしでは、いままでのような融資が出来ない状況になっている。

5.破綻回避の影響
 破綻回避を続けた結果、原子力政策や関係する組織の体質にさまざま歪みが起きている。そのような事例のいくつかを挙げてみると、

(核燃料サイクルなどの政策)
 再処理路線が破綻しないように回避を続けたため、使用済み燃料の直接処分の検討が閉ざされてしまい、使用済み燃料の中間貯蔵のための乾式保管庫建設をせざるを得なくなった。高速増殖炉「もんじゅ」が運転出来ずプルトニウム消費が行き詰まり、それを回避するために軽水炉でのプルサーマルが突然浮上。
 その早期実施が電力会社に大きな圧力となった。東京電力では大津波対策を明らかにすることがプルサーマルの地元対策上マイナスとなるため、社内で問題を先送りする方向に走り、福島第一原発の事故の原因のひとつとなった。今後もプルサーマルだけではプルトニウム消費の問題は解決しない。
 核燃料サイクルを破綻させないよう、電力会社が再処理工場を急ぎ建設したため、さまざまな問題が噴出し竣工を何十回と延期することになった。また、日本原燃をコスト意識のない組織にしてしまった。
 その結果、電力会社は追加負担に喘ぐようになり、万一日本原燃が行き詰まると全電力会社が債務超過になるリスクを抱えてしまった。
 福島第一原発の事故以降は、原発をエネルギー基本計画で重要なベースロード電源に位置づけることで、原発がなくなってしまうことを回避しようとしたため、実現の見込みのないシェア20~22%の目標設定となり、結果的に再生可能エネルギーの育成を抑制してしまった。
 返還されたガラス固化体の置き場所をとりあえず確保するため青森県と最終処分場にしないこと、受け入れ後に年限を切って搬出することを約束したため、核燃料サイクル計画から撤退することを検討することが出来なくなった。もし六ヶ所の再処理工場竣工を断念すれば、全国の原発を停止せざるを得ない状況に追い込また。
 破綻回避によって必要となった費用、福島第一原発の事故対応費用などが電気料金の上昇要因となった。回避のために何度も計画、工程などを変更したことで、一番大切な原子力政策に関する国民の信用が失われた。

(内部体制、業界の体質)
 国内の原子炉メーカーを3グループに絞ったことで、電力会社がPWR派とBWR派に別れてメーカーとの癒着が始まり、他社と競争しないことで健全な成長が行われなくなった。
 国と電力会社と原子炉メーカーが協力して破綻回避したため三者が運命共同体になり、緊張感、危機感が薄れてしまい、その結果、過酷事故対策実施の延ばしなどにより、欧米に安全面で遅れをとってしまった。
 国は原子炉メーカーの国内の受注が減って破綻してしまうのを回避するため「原子力立国計画」で海外進出を促したが、経験不足で見通しが甘く、逆にメーカーが大変厳しい状況に追い込まれた。
 電力会社は原子力の破綻回避のために社内の資金や人材を優先的に投入したため、全社的にバランスを欠き、古い設備の更新や自由化に対する各部門での十分な準備が出来なかった。現在も原発の再稼働が最優先課題であり、この傾向は続いている。
 不祥事が起きても電力会社では経営陣の偽装退陣が行われただけで権力構造はそのままだったため、以前の方針を変えづらく、また次の世代の経営陣が育つ機会が失われた。破綻回避には組織内の結束を高める必要があったため、内部のしめつけが強まり、情報管理強化や以前から問題であった内部の異論の排除など組織の民主的運営、対外的な柔軟性が失われたままになった。
 立地対策での破綻を回避するため電源三法交付金制度の拡充や電力会社の寄付金支出が増え、立地自治体が荒い金の使い方をするようになるとともに、双方の相互依存関係が決定的になり、自治体の電力会社へのチェック機能が弱まった。
 破綻回避容易に出来たことから、国や電力会社では問題が起きると政治力や経済力で破綻を回避しようとする傾向が強くなり、技術的努力や経営的な努力を怠るようになり、企業として必要な実力が失われてきた。必要な問題の解決よりも破綻回避の仕事に没頭するようになってしまった。

6.破綻とさらなる回避
 すでに見てきたように、いままで破綻回避を可能にしてきた条件は近年ことごとく変化を遂げ、破綻回避は困難さを増して来ており、このままでは核燃料サイクルどころか原子力開発計画全体が破綻してしまう可能性が出てきた。破綻はどのようにやってくるか。原子力開発計画を破綻させないで済むのはどんな場合かをリアルに示したい。
 
 破綻はどのような形でやってくるか
・原発の再稼働や新設に原子力規制委員会の審査と地元合意の二つのハードルが障害となり、今まで以上に時間がかかることで原発は経済性を失う。

・欧米の先行例のように原発の安全性を高めるため建設費が高騰することで、立地などの問題が解決しても資金回収の面から新たな建設は躊躇せざるを得ない。

・新電力との競争だけでなく、電力会社同士の競争が進むこと、全体の需要が減ること、再生可能エネルギーの拡大で余剰電源が増えることで火力発電所の設備利用率が低下。電力会社の経営状態が厳しくなり、原子力部門にかけてきた費用と人材が維持出来なくなる。原発再稼働が出来ない電力会社は赤字が大きくなり電力会社は原発を廃炉するか、他電力に移譲することで原子力開発から手を引くしかなくなる。

・競争に勝ち残った電力会社も、原子力規制委員会から新たな知見の水平展開を求められ、今後の追加費用が予測不可能であるために廃炉を選択、新規建設計画を中止せざるを得なくなる。

・福島第一原発の事故の廃炉、除染、賠償の見積が、今後これ以上膨らめば、各電力会社はその負担で収支を圧迫され原子力開発を出来なくなる。

・再処理工場の本格稼働がこれ以上延期されれば日本原燃が財務的に破綻し、これが全電力会社の債務超過問題を引き起こし電力会社そのものの経営が破綻してしまう。

・国民の原子力に対する信頼が回復しないまま、年限を決めた脱原発を公約にする政党が政権与党になれば、すべての原発は廃炉に向かうことになる。新たな建設は認められず、原子力開発は止めを刺されてしまう。

・政権与党が原子力開発を推進する立場で電力会社を財政的に支援しようとしても、電気料金は福島第一原発の事故処理と再生可能エネルギー支援のために値上げの余地はなく、社会保障や防衛予算に大きな支出が見込まれるなかで、原子力への税金投入は国民の理解を得るのが困難となる。

・今後も原子炉メーカーが海外で損失を出せば建設機会が国内外とも失われ、技術者の世代交代が出来ず日本から原発技術がなくなる。

 経済的要因は電源間の安全性経済性の競争により容赦なく来るものであり、政治的要因は実施した結果次第では見直される可能性が高い。また、政治的に破綻させた場合は、その影響を緩和するための施策がなければならない。

 原子力開発計画を破綻させないで済むのはどんな場合か。
・現政権が選挙に勝利し、多くの原発の再稼働が進み、それらが安定的な運転を続けることで国民の信頼を回復。エネルギー基本計画の見直しでエネルギー安全保障や温暖化対策のために電源に占める原子力シェアが確保され、固定価格買取りなどを前提に新たな原発の建設原発が行われた場合。

・温暖化防止の国際約束を守るために石炭火力発電を制限せざるを得ない場合、あるいは中東危機などで天然ガスの輸入に問題が生じた場合。

・電力会社が共同で原発を運転管理や廃炉をする体制を整え、原子力発電がより安全かつ効率的になった場合。

・再処理工場が本格稼働するとともに、トリウム熔融塩炉など新たな技術でプルトニウム消費の見通しがたった場合。

・原発の再稼働や新設に係る原子力規制委員会の審査を規制基準を緩和せずに効率化することが出来た場合。

・原発の安全性を高めるための建設費が高騰しないように、電力会社、原子炉メーカーが協力して革新的な合理化を進めることが出来た場合。

・電力会社が火力発電所などの整理や事業の合併などで新電力との競争に打ち勝つことで、原子力部門にかける費用と人材を維持出来た場合。

・再稼働が無理な原発は早期に判断して廃炉するか、他電力に移譲する決断を出来た場合。

・原子力規制委員会から新たな知見の水平展開を求められた場合の追加費用、あるいは早期の廃炉による損失を国が肩代わりする制度が設けられた場合。

・再処理工場を国が買い取ることで、電力会社の債務超過問題が起きないように出来た場合。

・今後、原子炉メーカーが海外で損失を出した場合、これを補填する保険などの制度が出来た場合。

・福島第一原発の事故処理と再生可能エネルギー支援のための政府の支出に上限を設けることが出来、かつ政府の景気対策で税収を増やして、原子力開発に必要な予算をつけることが出来た場合。 

 各項目は単独で効力を発揮するものは少なく、総合的に対策を取る必要がある。経済的破綻を政治的に回避しようとすれば、それは国民の負担増に直結する。したがって電力会社など当事者には経済的破綻しないよう一層の効率化、合理化の努力が求められる。

7.おわりに
 破綻の回避はその理由が合理的なものであり、かつステークホールダーに対して状況や理由が事前に明確に示されるべきである。原子力開発においても、破綻回避を行う際には、その理由を明確にして合理的な判断であることを示す必要がある。
 原子力開発をこれからも進めようとする国や電力会社は、原子力開発でいままでに行われてきた破綻回避がこれらの説明責任を完全に果たしてきたかどうかを検証する必要がある。これまでの原子力開発を総括し、破綻回避の理由なり経緯を真摯に説明し、納得してもらえない限り国や電力会社は国民からの信頼を回復することは土台無理である。           (完) 

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