日本エネルギー会議

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大企業と不祥事(4)

 1992年は今考えると伝統的に新卒者の定期採用をしている日本の産業界にとって重要な年であった。その年に日本の18歳人口がピークに達して205万人になったのだ。その年から高校生が進路を決める18歳という区切りの人口は一貫して減り続け、来年2018年には120万人になる。
 このような凄まじい18歳人口の減り方が何を意味するかを理解するには、太平洋戦争中の兵力の状況が参考になる。開戦から2年も経つと日本は劣勢となり多くの兵隊が戦死し、産業界の働き手までを赤紙で徴兵し増強したが追いつかない。
 ついには学徒動員、徴兵年齢の引き下げを行い、軍事工場には女学生まで動員された。それでも足りずに国を挙げて「産めよ殖やせよ」となったのだ。優秀な戦闘機のパイロットは次々に戦死して、それを速成で訓練した新兵で補充していった。(アメリカも新兵急増だったが、優れた養成システムと新兵でも操縦可能な飛行機を作ったという話はある)その結果は数だけは揃えたが実力の伴わないパイロットや工員であり、とても戦える力はなく、製造した兵器も品質が低下していった。
 同じようなことが1992年以降、平時に産業界で起きているのである。ただし、人材不足の原因は戦死ではなく少子化である。
 この間、大学進学率は約2倍の50パーセント台になって大学卒が大量に供給されているが、誰でも大学に行くようになったため、その学力は低下しており学校の先生も企業の採用担当者も「大卒はそれまでの高卒か高専卒、大学院卒はそれまでの大学卒」と言うようになった。
 18歳人口が減少し続け大学進学率が上昇したため、いままで現場を支えてきた高校卒の採用が少なくなって、それを実力の伴わない大学卒が埋めることになった。かつては経済的事情で大学進学を諦めた高校生が数多くいて、彼らは企業に入ると社内教育によってすぐに現場を支える力となった。
 当時、工業高校卒の学力とポテンシャルは今から考えると驚く程高く、アメリカの電力会社のスタッフは日本の原発の中央制御室の運転員のほとんどが高校卒であり、運転責任者まで高校卒の方が多いことに感心していたものだ。
 大学卒の学力に関しては世界の大学のランキングで日本の大学が毎年順位を落としている。18歳の人口が毎年減っているが大学の数は変わらず、定員割れの私立大学が40パーセントを超していることから、全体の競争率の低落は学力低下に直結していると見るべきである。
 最近は推薦入学が多くなったこともあって、文系では入学時にサインコサインはおろか、分数や割り算さえもおぼつかない学生がいるという。大学教授等の意見はどうなのか。国立大学の工学系の研究室の中ではアジアの留学生の貢献が大きくなっているということは今から10年くらい前に聞いた話だ。工学系では高校の数学のおさらいをしてから講義を始める先生もいるようだ。
 卒業生の減少によって、どの業界でも採用時に従来通りの学力試験を行えば一流企業以外では採用数と質を満足出来ない状況ではないか。大企業は学生に人気があり選別が可能ではあるが、それでも全体的な学力低下によってトップクラスの人数も少なくなると考えるのが自然である。就職内定率が年々上がっていることにも注目したい。
 生徒数の多い高校で揉まれ、18歳人口が今日の倍もいるなか、難関の大学入試を突破し成績優秀で大企業に入った先輩たちが、最近の新入社員に接して物足りなさを感じるのを「年寄りの繰り言」とは言えないのではないか。 
 入社してくる社員の実力不足の影響をもっとも早く感じるのは中小企業である。これに対して、大企業の中でも電力会社や原子炉メーカーなど名だたる大企業では新入社員の実力不足をあまり感じない可能性がある。
 有名企業は学生が殺到するために一番成績上位の学生が来るからである。確かにいつの時代にも10~20パーセントは超優秀な学生がいる。しかし同学年の人数が少なければそれに比例して超優秀な学生も少ないため、いずれ物足りなさを感じるはずである。                        
(つづく)

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