日本エネルギー会議

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美談の裏側

 太平洋戦争中に特攻機に乗って何度も生還して出撃を繰り返した操縦士について書かれた本が最近出版された。「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 (鴻上尚史著 講談社現代新書) である。この本は戦後70年経って、ようやく当時もまともな考えを持ち、それを貫いた日本人がいたことを明らかにした。
 日本軍の戦術で最悪なものが特攻であり飛行機だけでなく貴重なパイロットの生命も失われた。旧日本軍と当時のメディアは「爆弾三勇士」など美談づくりに長けており、特攻隊も軍神として祭り上げた。戦後においても特攻隊の戦死者を国のために我が身を犠牲にして国のために戦ったと称える風潮が残ったままだ。本の中で、体当たりせよという命令はそれまで訓練してきた急降下爆撃などの戦闘技術を否定し、パイロットの誇りを傷つける作戦だったと著者が指摘していることに注目したい。
 門田隆将著「死の淵を見た男」を読むと福島第一原発の事故当時、重要免震棟のトイレが血の小便で真っ赤になっていたこと、床にそのまま死んだように寝てしまう作業員の様子、何が起きているか、これからどうなるかをまったく推定出来ない本社の幹部の狼狽などが描かれているが、なかでも吉田所長が現場に行く下請け作業員に心の中で手を合わせたくだりが印象に残る。
 冷静に考えれば、ベント操作のために高線量の建屋内に突撃することは、東日本が壊滅することを防ぐための人として立派な行動ではあるが、技術者としては本来の姿ではない。そんな犠牲を払わねばならないのは、原子力技術者側の敗北であることを認識すべきである。
 本当に後世に伝えなくてはならない組織の致命的な問題や設計や運営にかかわる本質的な問題を美談が覆い隠してしまう恐れがある。当時、ニューヨーク・タイムズ紙が、度重なる水素爆発の後も福島第一原発に残った「無名の50人」の作業員たちを讃える記事を掲載するなど海外から現場の作業員の勇気と行動を称賛し、国内メディアがそれに追随した。大衆は美談を好み、読むことで無名の英雄がいたことに興奮し、問題の本質からは目をそらしてしまう。戦時中の大本営がメディアに美談を書かせたのもそれを狙ったものであろう。
 しかし「福島フォーティーズ」の存在は国と東京電力の問題点と裏腹の関係にある。特攻を命じた日本軍上官の背景として、絶対的な戦力の不足、工業力の不足、物資の不足、作戦能力の不足、人を物を同一視した誤った考えがあったのであり、福島第一原発事故における高線量の現場へ突入の背後には、国や東京電力の原発の安全性に関する過信、絶対的な技術力や経験の不足、原発を運営する企業としてふさわしくない体質、行政の国民に対する責任の放棄が存在していたのだ。後世に伝えるべきは、美化された犠牲的行為ではなく、過酷すぎた現場の実態、それをつくりだした政策面、経営面、技術面での問題がどのようなものであったか、何故そうなったかである。

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