日本エネルギー会議

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車検と実技試験

 マイカーに乗るには、まず車検に合格したクルマと運転免許証が必要だ。免許合格には学科試験・実技試験をクリアしなくてはならない。原発の再稼働に当たっては新規性基準に合格しなくてはならない。これには計画を承認してもらった上で設備の性能試験にも受かることが条件だ。では運転免許証に当たるものはどうなっているのだろう。
 原発を運転する場合、電力会社は原子炉主任技術者、ボイラータービン取り扱い主任者、放射線取り扱い主任者、公害防止管理者、運転責任者などの国家試験に合格した者を任命しなくてはならないが、これらの試験はすべて学科と口頭試問のみである。また、電力会社に対しては運転保守体制、運転員などに対するシミュレータ訓練を含む教育訓練計画などを提出することが義務付けられている。原発の運転は交替勤務で行われるため、当直長として運転要員の中から最低数人の運転責任者を合格させなければならない。
 福島第一原発の事故によって、事故時の原発の中央制御室の様子がつまびらかになったが、車の運転と原発の運転の決定的な違いは事故時の対応だ。それは運転員のシミュレータ訓練の大半が故障や事故対応であることからもわかる。しかし、福島第一原発の事故を省みると、運転員などの技術系社員(事故の際に応援に駆けつける社員や本社の技術者も含む)の知識に加えて計算能力や判断能力、それに極度に混乱し緊張した現場での精神力、体力などについてまだまだ課題は多い。
 過酷事故につながるような事故や故障が起きた場合、発電所内は大量の情報が飛び交う。直ちに必要な情報、重要な情報以外にも、ありとあらゆる情報が中央制御室や対策本部に押し寄せてくる。
 人身事故の発生、作業員の被ばくや汚染、海など環境への放射能漏洩などが伴えば、そちらの情報がどっと入ってくる。そのため、中央制御室と現地対策本部の間の連絡さえままならないことがある。原子力規制委員会の更田委員長が一サイトに複数の原子炉がある場合、対応できるのかとの疑問を呈しているが、1基の場合であっても相当に難しい。
 中央制御室も操作パネルのランプが点滅し警報が一斉に鳴り始め騒然としたものになる。非常灯だけ残した中央制御室の停電はシミュレータ訓練でも行われているが、福島第一原発の事故のように大きな余震が続き、津波で現場が水没し、全電源喪失で真っ暗になれば心理的な負担は最高潮に達する。そのような状況はどんなシミュレターでも再現出来ない。また、実際の事故は訓練時間の範囲で収まるものは少ないと思われる。交代要員がいたとしても、十分な引継ぎが出来るかが問題だ。 
 こうした状況で冷静に情報を整理し優先順位をつけ、その時点で最重要な情報を特定して分析判断し、適当なタイミングで指示を出すことは単に知識や技術力だけでは出来ず、それこそ経験がものを言う。中央制御室はあらゆる重要な運転データが表示されているが、その表示はあくまで現場の計測器から通信ケーブルを通じて送られてきたものであり、現場を100パーセント再現しているわけではない。ポンプが回っているという表示がされていても、運転員が現場に行って目で確認するまでは安心は出来ない。複数の計器が矛盾した数値を表示する可能性もある。
 従来、事故訓練は形式的、きれいごとで済まされてきたとの反省に立って改善がされているようであるが、福島第一原発の事故当時のような場面を再現して訓練を行わなければ本当の意味での実力はつかない。福島第一原発の事故ではせっかく実行した措置が再び壊された例も見られる。不撓不屈の精神がなければ過酷事故は対応出来ない。事故訓練の様子について国・電力会社やメディアの発表を読むと「大規模に」「整然と」「真剣に」「粛々と」「緊張感をもって」「さほどの混乱もなく」「計画どおりに」訓練が行われたとしていることが多いが、そこからは何の疑問も問題意識も感じられない。
 官邸、経産省などの関係機関、原子力規制委員庁、電力会社の本社、メーカー、自治体においても実際的な訓練がどれほど行われているのか。原発事故対応の指揮を取る立場の人々は一部を除いて代替わりをしている。再び原発の過酷事故が起きたら、彼らは福島第一原発の事故の時より上手く対処出来るという自信があるのだろうか。機械系が新規制基準をクリアしたからといって直ちに原発の運転を認めるわけにはいかない。機械系に加えて、人間系が福島第一原発級の事故に遭遇してもクリア出来るだけの力を持っていることを証明してもらわねば安心は出来ない。

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