日本エネルギー会議

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気になるトーンの違い

 あと3年で福島第一原発の事故から10年だが、その頃までにデブリの取り出しやトリチウムの海洋放流は目処がたっているのか不明なままだ。エネルギー基本計画では2030年、2050年などの目標について議論がされているが、10年、20年などという年月はあっという間だ。今、新しい原発の建設計画を決めたとしても10年後にはまだ運転は出来ていないだろう。原発に関してはなにをやるにも、時間がとてつもなくかかることは関係者の共通認識となっている。
 今月はじめ、ハワイにあるマウナロア観測所が初めて二酸化炭素濃度が410ppmの大台を超えたとメディアが一斉に報じた。60年以上にわたる観測史上初めてのことだ。産業革命前は、自然現象によって何千年もの間、二酸化炭素濃度は変動を続けていたが、過去80万年で300ppmを超えたことはなかった。濃度を示すグラフのこぎりの刃のような線が急角度の右肩上がりで登っているのは不気味である。
 山本良一・東京大学名誉教授は、「現在進行している北極圏の海氷の激減が世界各地で異常気象をもたらしている」と指摘している。「2040年には、夏場に北極圏の海氷が全て溶けてしまい太陽光線を反射しなくなる。そうなれば急激な気温上昇でシベリアの地下にあるメタンガスや海中のメタンハイドレードが空気中に噴出して、強烈な温暖化ガスとなりさらに温暖化を加速する」という。
 今からわずか22年後の話だ。既にシベリアのメタンが溶け出していることは別の報道でも見たことがある。宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士が心配した地球の金星化の前触れとして、猛威を振るう異常気象で各国は壊滅的な被害を受け、なかには滅びてしまう国も出そうだ。
 「あと20年くらいで脱炭素社会を実現しなければ、こうした予測は現実のものとなる」と山本教授は言っているが、我が国のエネルギー基本計画のトーンは石炭火力を重要電源とするなど、これとはまったく違っている。かつて記録したことのない豪雨で東京の下町が水没して大停電が起き、今年運転開始した新鋭石炭火力がすべて止まってしまえば、これほどのブラックジョークはないだろう。
 温暖化ガス排出のほとんどがアメリカと中国であり、ここが動かなければどうにもならないが、途上国の問題もあり現実は厳しそうだ。温暖化を引き起こしたのが科学技術だとすると、それを押さえ込むのも科学技術に頼らねばならないだろう。脱炭素社会に向かう以外に、大気中の二酸化炭素を除去することを科学技術の全てを賭けてやる必要がある。それにはAIやバイオテクノロジーを駆使することになろうが、よほど画期的な発明がされない限り手遅れになるのではないか。
 守屋洋著「漢詩の人間学」(プレジデント社)の冒頭に、「老麒伏櫪 志在千里 烈士暮年 壮心已まず」という三国志の曹操が詠んだ詩の一節が取り上げられている。麒という空想上の動物は、年老いても志だけは千里のかなたに馳せている。同じように男らしい男は晩年になっても気概だけは失わないという意味だ。人類が温暖化の危機を切り抜けられるかどうかは見届けられないだろうが、せめて自らは「壮心已まず」でいたいものだ。

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