日本エネルギー会議

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原発で必要な訓練

 原発の事故訓練といえば、福島第一原発の事故以前はどの原発も発電所の技術課などが中心になって訓練シナリオを書いた、いわば自作自演であった。この程度なら出来る、時間内に終わる、検査官に対して、自治体やメディアに対しても格好がつくということで作っていた。現場ではそのシナリオに沿って事故訓練前に手順書や現場も整備もしていた。
 役割分担、事前の模擬演習も行っていた。慣れてくると、訓練開始の時間には自治体の職員は席を立ってファックスの前で紙が出てくるのを待っていたというようなことが行われていた。要は台本通りにスムースにお芝居が出来たかが問題であった。自治体の災害訓練も同じようなものだ。メディアも「混乱なく訓練が行われた」と報じたから万事めでたかった。
 世の中には試験がたくさんあるが、どの試験でも教科書のなかから出る範囲を示すことはあるが、あらかじめ問題は明かさない。それが本来の試験だ。試験で受験生が自分で問題を出すことはない。しかし、原発の場合、自動車教習所で実地試験をやるように、実際に試験をやれば過酷事故になったり、機器を損傷したりするなどの危険を伴うので実地試験は出来ない。だからといって「シナリオあり」でお芝居のような訓練で済ませてしまってよいものだろうか。自作自演にして、時間通りに手際よく終わらせることが目的になっている。これこそ目的と手段の取り違えだ。
 シナリオがあったとしても、少なくとも事前に訓練をする人たちに台本は配らないほうがよい。頭を使わないからだ。シナリオを見ずにやってみると何が不足、どこが大変なのかがよくわかる。問題点がどんどん出てくる。自作自演のシナリオでは学べることが限られてしまう。福島第一原発の事故が起きた際にいままでやってきた事故訓練がどれほど役に立ったかの検証はまだ出来ていない。
 では、原発ではどのような訓練が可能で、効果が期待できそうなのはどのような訓練なのだろうか。ひとつは中央制御室の運転員や支援技術スタッフの対応訓練だ。この場合、シナリオは導入部のみとし、計器による数値と現場確認結果を与え、どのような事態が起きているかを的確に判断し、どのような操作をすることで事態を拡大させずに鎮静化出来るかの試験をする。操作による結果も計器による数値で与える。
 この訓練はいままで運転訓練センターなどで行っていた訓練をもっと本格化させたもので、フルスコープまたはコンパクトのシミュレーターで行うとよい。フランスでは意図的に誤った数値を与えて、機器の誤動作、計器の誤表示を見破る訓練までしている。間違った対応をすれば、事態がメルトダウンに向けて、さらに悪化する数値を与えるようにする。中央制御室で操作をしても現場の機器がそのとおり動かないこともあえて想定する。
 この訓練の場合、時間の制限はせず、事態が鎮静化するまでやらせる。シナリオはお教えないこの訓練を行うことで、運転員などは初めて実際の事故が起きた場合と同じような経験が出来る。福島第一原発の事故のように、対策本部への必要な報告をさせる、室内を停電状態にする、計器の一部をスケールダウンさせる、マスクを着用させる、電話の制限をする、新たな機器の故障発生などすれば、より難しい訓練になる。
 もうひとつの訓練は実際に発電所の現場を使い、防護装備をし、さまざまな環境条件を仮定して行う動作の訓練だ。これは運転員や保修員、それに工事請負作業グループを対象に行う。事故の際は、電気や圧縮空気で機械的に動作するはずのものが動かなくなり、人が直接にその代替をしなくてはならない。この訓練ではあらかじめ、そのような場合を想定して繰り返し練習して技能、体力、チームワークを育てることが狙いだ。
 例えば、全面マスクをして決められた時間で工具など機材をある場所からある場所まで運ぶ。指定された地点の環境測定をする。指定されたバルブを手動で操作する。ケーブルのつなぎ込みをする。消火活動をする。放射線の遮蔽を行う。仮の照明を設置する。移動式のポンプで排水作業を行う。一定の場所の除染を行う。負傷者の救出を行う。ロボットの遠隔操作を行うなど。これらを組み合わせ、制限時間を変え、人数を変えて現場での訓練を行う。屋外作業では天候の変化、高温あるいは低温、強い風速、夜間、続く余震、浸水、地割れなどを覚悟しなくてはならないので、そのような想定も行う。対象となる人は機械屋が電気のこともわかるなど、出来るだけ多能工化を図るとよい。
 事故の際には、現場でさまざまな条件の下、作業遂行が緊急性を持って要求される。これに的確に応えられるように、動作単位に訓練を積んでおくのが、この訓練である。消防署におけるレスキュー部隊の訓練などが参考になるはずだ。一部では既にこのような訓練も行われているが、個人ごと、チームごとの訓練実績を記録し、事業者としてどの程度の対応能力を保持しているかを常に把握しておく必要がある。

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