日本エネルギー会議

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文明と原子力(3)

文明が存続するためには異なる文明、新たな文明との競争に打ち勝って行かなければならない。競争では経済性、安全性、安定性、環境性、持続性、強靭性などを総合評価されて勝敗が決するが、人々は文明を選択する際に同時代の文化に強く影響されることに注目する必要がある。

文明が人々の生活に物心両面で余裕をもたらした結果として、文化は国や団体のような組織単位で思想、芸術、文学、娯楽、生活スタイルなどの形で花開く。原始時代には石器文明の下で遺跡に残されたような文化が、アメリカの石油文明・工業文明の時代にはアメリカ風の芸術や生活スタイルを生み出し世界に広がった。文明は技術的、物質的なものが主となり理性的、合理的でリアルであるが、対して文化は空想的、理想的、情緒的であり、生き方、価値観として示される。

文化は文明のゆりかごで育つのだが、そこで生まれた考え方、理想は文明を支持するとは限らない。むしろ相容れない場合が多く、文明に対してその価値観や理想を声高に主張してくる。文明が人々の生活に余裕をもたらし文化を生み出したにも拘らず、文化は文明に疑問を呈し、新たな文明の方向性を示唆するようになるのだ。何故なのだろうか。そのことも含めて、原子力が20世紀に新たに登場した文明として、いかに同時代の文化を作り上げて行き、その後に反抗されているかについて見ることにしよう。

原子力は前例のない科学技術の飛躍の成果であり、原始人が火を使い始めたことや現代人が宇宙空間に進出したことに並ぶ画期的なことであった。酸素を消費する化学反応の燃焼ではなく、核分裂の理論により原子核を人工的に壊して莫大な熱を発生させ、さらに、この熱を連続的に取り出して利用することも出来るようになったのが原子炉である。

原子レベルまで踏み込むことで自在に核を壊して熱源として利用する能力を持つようになったことは、物理学、化学、生物学などでその後の原子レベルの新たな挑戦を促し近代文明をつくった。人々は自然を思いのままに征服し利用する手段として科学技術をこれまでになく高く評価し活用するようになった。特に核燃料サイクルや核融合は、永遠に使い切れないエネルギーを得る方法を獲得したのではないかとの期待を人々に抱かせた。

しかし、その後、原子力が原爆という大量殺戮兵器として使用されたこと、環境の放射能汚染や生体に対する放射線影響など対応の難しい問題が発生することを知ったこと、同じように生態系を滅ぼす化学物質による汚染や廃棄物の問題に直面して、次第にこの文明を方向転換させなくてはならないと考えるようになった。原爆や原発の事故を経験した人々は、原発は人間の手に負えないものではないかとの疑念を持つようになり、安全性と経済性とのジレンマを抱えるようになった。原発がなければもっと大きなリスクを背負い込むことになることを理解させるのは意外に難しいものである。原発の起こした電力や化学物質で物質的に過去のどの時代より恵まれた生活をしている人々が、全部ではないにしろ原子力など科学技術が育てた文明に対して疑問を持つようになり、原子力や化学物質による文明を終わらせ次の文明をつくらねばならないと考え始めたのである。
(つづく)

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