日本エネルギー会議

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日本国の危機意識

世界はG20からG0に向かっている。国と国が協調しなくなれば、中東や東アジアを始めとして紛争や戦争の可能性は大きくなる。そうなれば国が国民の生命や財産を守ることは今よりずっと難しくなることが予想される。前回の大阪万博をプロデュースした堺屋太一は「油断」という小説を書いたが、昨年出された政府のエネルギー基本計画では、「油断」に対する特別な配慮は感じられず、なんとも呑気なものだ。

以前から本棚にある 石油で読み解く「完敗の太平洋戦争」 (岩間 敏著 朝日新書 57)を昨日、読み返してみた。太平洋戦争開戦前、時の政府は専門家に石油の備蓄量からシミュレーションをやらせて勝てる可能性がないことがわかっても、それを隠してしまったこと。戦争の初期に南方へ進軍してインドネシアの油田を獲得すれば大丈夫という楽観的なストーリーを作って開戦をしてしまい、敗戦時には予測どおり石油がなくなり、戦う能力が完全になくなったことが書かれている。分かっていても無視するという楽観主義は60年後の福島第一原発の事故にも通じる。

現実的な日本国民の生命と財産を脅かす要因を考えていくと、戦争、紛争、テロなどの軍事力や大事故によるものと、大規模自然災害やウィルス感染など自然力によるものに大別される。要因は単一であるとは限らず、複合的に起きる場合もあることは福島第一原発の事故で明らかだ。それらによって破壊されるのが国土であり、インフラ、エネルギーや食糧・水の供給、生産設備や住居、情報・技術などである。これがなくなれば国民は生きていけない。

それぞれの発生リスクは現在どの程度なのか、発生をどのように防ぐのか、発生した場合にどのように対応するかを考えておくのは日本では誰の仕事か明確でないように思える。全体を管理し、短期・中期・長期で考えている常設の政府の組織や会議体はあるのか。大きな自然災害や事故が起きると政府は関係閣僚会議を招集したり、首相をトップにした対策本部を設置したりするが、やっているのは対処療法だけで、普段から考えておくことは十分に行われていないのではないか。対象をエネルギーとし、その中の電力供給だけ取ってみても、先の地震による北海道大停電のように国民にとって大きな脅威となる。現在、電力供給は下図のように大半が輸入した化石燃料による火力発電に依存している。

日本全体の電源構成(2017年)

火力発電がストップすれば、大規模な範囲で命にかかわる危機が到来するのは間違いない。福島第一原発の事故以来、原発の安全についてはさまざまな対策がされ、その内容も国民が知るようになったが、火力発電や送配電についてのリスクや対策はよく知られていない。大手電力会社のホームページもメディアの報道も安全についてはもっぱら原発に集中している理由は、彼らの発想がリアルでないからか、気づいていても隠しているかだ。火力発電所が事故を起こしても、住民が避難することはほとんどないが、複数の火力発電所の事故により電力供給がストップすることは大変なことだという認識を国民が持つべきだ。

そこで複数の火力発電所が停止するリスクを考えると、南海トラフなどの広域的大地震・大津波と敵国からの攻撃やテロがある。東京湾や大阪湾を含む広範囲の海岸には数多くの火力発電所が存在する。燃料受け入れ設備、送電用の変圧器や送電鉄塔も存在する。これらの施設のどれかが被災しても発電所は運転停止になり、各地域の電力供給の大半が出来なくなる。また、そこから大消費地までの送電線に異常が起きれば火力発電所が無事でも、やはり運転停止に追い込まれる。何百キロという長い送電線のうち、たった1基の送電鉄塔や変電設備が自然災害やテロにより倒壊しただけで同じことになる。現時点では、送電鉄塔の周囲には金網フェンスしか見えないが、テロリストの爆弾付きドローン攻撃に対して総延長何千キロの送電線が防御出来るようになっているのか問わねばならない。

火力発電所の燃料の供給についても心配がある。特に石炭や石油に比べてLNG火力は燃料の長期備蓄が困難である。諸外国からタンカーで持ち込まれる液体のLNGは特殊な貯蔵タンクに入れられるが、その貯蔵能力は限られており、石油備蓄基地のような大きな容量はない。現在、LNG火力は火力発電全体で約4割を占めており、特に東京電力と中部電力では比重が大きい。現地積出港やタンカーでの輸送ルート上での被害、埠頭など受け入れ施設や貯蔵施設の被害はたちまちLNG火力発電所の停止につながると考えるべきだ。その場合、他の電源や他地域からの送電ではカバー出来ず、大量の避難民が発生するだろう。

政府はこのリスクを正面から受け止めるとともに、国民に対して包み隠さず実態を明らかにして直ちに対策の検討と実施に移るべきである。

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