日本エネルギー会議

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福島の復興を考える(38)

福島の復興においては、ソーシャル・キャピタルの再形成が鍵になりそうだ。ソーシャル・キャピタルとは聞きなれない言葉だか、社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念で、人々の協調行動によって社会の効率が高くなることだ。ソーシャル・キャピタルが蓄積された社会では、相互の信頼や協力が得られるため、他人への警戒が少なく、治安・経済・教育・健康・幸福感などに良い影響があり、社会の効率性が高まるようだ。例えて言えば、昔の日本にあった隣組のようなものだ。寺の檀家や神社の氏子などもソーシャル・キャピタルと考えてよいだろう。現代では特に都会で、役所が税金を使ってさまざまなサービスをやるようになったが、これから迎える人口減少、少子高齢化時代には再びソーシャル・キャピタルの役割が重要になってくる。

東日本大震災の翌日の3月12日午前、福島県富岡町役場は防災無線でこう呼びかけた。「福島第一原発で事故が発生しました。住民はマイカーで隣の川内村の役場を目指して避難してください。車のない近所の方も乗せてあげてください」 これは、町役場でバスが手配出来ないため、ソーシャル・キャピタルの力に依存した例であり、このように非常時にはソーシャル・キャピタルはより必要とされる。
事故以前、富岡町は行政区で区切られており、住民はいずれかの行政区に所属し、区長や班長がいた。区長は住民による選挙で、班長は持ち回りで決まっていた。地域の子供は成人すると何人かは消防団に入り、女性の消防団もあった。都会では経験したことはなかったが、富岡町に住むようになってからは、毎年公民館で区の総会や懇親会があり、毎月のように住民による道路脇や空き地の草刈り、側溝のゴミ拾いをしていた。班長になると回覧板をまわしたり、寄付を集めたりしたものだ。

福島第一原発の事故で住民は散り散りに避難をした結果、現在その多くは県内外に分散して暮らしている。富岡町では大半の地区の避難指示が解除になったが、戻った住民は少なく、復興公営住宅の区域などで区長や班長がいるに過ぎない。檀家や氏子も同じことになっている。

避難区域の現状を見るとソーシャル・キャピタル再構築のニーズは極めて高い。浜通りの各町村でも帰還後の地域とともに、避難先に居住して地域に戻らない住民に対して、ソーシャル・キャピタル再構築のためにさまざまな取り組みが行われてきた。

例えば、仮設住宅では孤立死をふせぐための声かけを役員が率先してやっていた。また、仮設住宅の中心には住民たちが交流するための集会所が設けられ、町からの委託を受けた社会福祉協議会の職員が常駐していた。
仮設がなくなった今日でも、富岡町内といわき市や郡山市など県内の主要な避難先で、社会福祉協議会は交流サロン、出前カフェ、華道教室、こころとからだリフレッシュ講座、暮らしの心配ごと相談会、介護予防事業、スポーツ教室などを行っている。毎月、町役場や社会福祉協議会から予定などのパンフレットが避難先にどっさり送られてくる。避難先にとどまっている住民の気持ちを富岡町につなぎ止める効果も狙っている。避難指示が解除された町では、廃炉工事などで新しく来た住民も参加してもらい、ソーシャル・キャピタルの再構成を進めることが大切である。

しかし、これも問題がないわけではない。集まるのは、いつも同じメンバーであること。集まる人数が少なく、効率が悪い。世話をする側の人数が不足している。これから高齢化が進みますます参加者が少なくなる。復興期間が終われば、財源が続かなくなり、役場からの手厚い支援は無理になる。被災地では、ソーシャル・キャピタルの重要性が高まる一方で、状況は悪化しそうなのだ。

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