日本エネルギー会議

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対応能力こそ大切

福島第一原発の事故の際に明らかになったのは、設備的問題に加え、事故時の対応能力が不十分であったことであり、電力会社のみならず規制当局自身も対応能力の点で大いに問題があったのである。
自然災害で原発が被災したとき、設備の故障やヒューマンエラーで事故になりそうになった時、何が求められるのか。まず、現場で何が起きているのか、設備がどんな状況なのかをいち早く正確に把握することであり、それがなくては対策が打てない。ところが原発では原子炉内はもとより格納容器内でも運転中に立ち入りには制限があり、情報の多くを中央制御室にある計器によらなければならない。

運転責任者(当直長)はこれらの計器の情報に加え、現場を見た運転員からの報告によって、原発で何が起きているかを速やかに分析して、運転手順書を確認しながら現時点での最善の一手を打つことが求められる。シミュレータ訓練を見てもわかるのだが、事故の前兆、あるいは事故に突入した場合には、中央制御室の制御盤や壁にずらりとならんだ計器や無数のスイッチのランプなどが一斉に点灯し、同時に警報音が鳴り響き騒然とした雰囲気となるが、運転員は運転責任者の下、チーム一丸となってその場で適切に動くことが求められる。

NHKスペシャルでは俳優を使って福島第一原発の事故当時の中央制御室が再現された。福島県富岡町にある東京電力の廃炉資料館の展示でも福島第二の中央制御室を使って撮影した再現映像が見られる。ただし、実際には交流直流両方の電源を失った後は真っ暗な中で警報音もならない闇の世界であったので、シミュレータ訓練で鍛えられた運転員も心理的に極限状態にあったと想像される。

私が問題にしたいのは、発電所の免震重要棟に設けられた所長以下発電所幹部による緊急対策本部と東京新橋の本店ビルの非常災害対策室内に設けられた対策本部の情報収集分析能力である。中央制御室と緊急対策本部と本店の対策本部の関係はいまひとつ不明確で、福島第一原発の場合でも事故のある段階から、現場の所長がトップの緊急対策本部が意思決定をし、その指示で中央制御室が操作にあたったように見えるが、本店の対策本部との関係はどちらが最終的な決定権を持っているのかよくわからなかった。さらにその上に官邸からの意向のようなものもあった。このあたりは現在、明確になっているのだろうか。

運転員の訓練と同様、いろいろな情報、報告によって発電所がどのような状況になっているのか現地の緊急対策本部や本店の対策本部が把握するための情報整理、分析能力を鍛える訓練が当時まったく不足していたし、現在も不足していると思う。福島第一原発事故の当時、現地の司令塔として対応にあたっていた吉田所長は本店の対策本部や原子力安全・保安院、官邸から情報を要求されるばかりで、その対応に時間を取られていた。吉田所長は柏崎刈羽の所長から貰ったアドバイスのようなものが欲しかったに違いない。

今やるべきことは、現地の緊急対策本部と本店の対策室の主要メンバーが、あらかじめ仮に設定した発電所の主要な計器の数字といくつかの情報によって現場で何が起きているかを推測し、最善の一手を考える訓練である。この訓練を発電所ごとに月に一回はやることである。必要であればメーカーの技術者も加わるとよい。この訓練は今まではやっていなかったし、やっていたとしてもシナリオがあらかじめ示されていたお芝居に過ぎなかった。それでは情報収集、整理、分析能力は磨かれない。福島のように事故が起きてから2、3日たっていても、まだ原子炉の中がどのような状態になっているのか推定出来ず、あてずっぽうな対応しか打てないようでは困るのだ。

原子力規制委員会はこの訓練をやるよう電力会社に指示するべきである。フランスではあらかじめ用意した計器の数字や情報の一部にフェイクなものを入れて、それを見破らせるところまでやっている。日本の対応メンバーも早くフランスのレベルまで到達するようにしなくてはならない。

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