日本エネルギー会議

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アクシデント・マネージメント訓練の進化(1)

全国の原発で盛んに事故訓練が行われている。電力会社が原子力規制庁に提出した報告を見ると、各原発は毎年延1500回にも達するさまざまな訓練を実施したことになっている。各原発で1日平均4~5回なんらかの訓練を行っているのは異常とも思え、他の産業では考えられない多さだ。

そうした中で、私が一番注目するのはアクシデント・マネージメント訓練である。何故なら、原発の過酷事故に際して施設がどのような状況にあるかを的確に把握し、今後の原子炉や機器の挙動を出来るだけ正確に予測し、中央制御室や現場での操作に対して次に打つ手を決めて指示し、どうやって周辺環境への影響を少なくしながら事故の拡大を防止して原子炉を安全な状況まで持っていくかということをするのがアクシデント・マネージメントだからである。

福島第一原発の事故の際、当時の吉田所長以下が、直流電源を失った中央制御室がプラントのパラメータを把握できなくなったため原子炉の水位がどの程度であるか確証がなく、メルトダウンが起きているか確証がもてず、設計値を超えて上昇している内圧を減らすことが出来ず、ベント操作をしようとしてもうまくいかないなど、アクシデント・マネージメントがうまくいかずに何昼夜もまさに悪戦苦闘した。東京電力本店でも技術系幹部がこれを支援しようと、あれこれ質問や指示を現場に要求するなど混乱に拍車をかけた。

当時、原子炉がどのような状況であったか、どのような戦略で事故を収束させればよかったかは、ずっと後になって石川迪夫氏(元日本原子力技術協会理事長)等によって明らかにされることになったが、それでは遅いのである。福島第一原発のアクシデント・マネージメントの体制整備、訓練が不十分だったと言わざるを得ない。

福島第一原発の事故の数年前に、日本原子力産業協会は人材育成の観点からフランスの原子力発電の教育訓練に関する調査をするために調査団を派遣したが、私もその一員であった。フランス側が視察をすることを勧めてくれたのがアクシデント・マネージメント訓練であった。彼らは軽水炉で過酷事故が起きることがあるとの前提のもと、そこから訓練を作り上げてていた。アクシデント・マネージメント訓練の重要性について認識するとともに、その実績や内容に誇りを持っていたと思われる。

視察した結果は、我々にとって衝撃的なものであった。それまで日本ではシナリオがあって時間通りに終わる事故訓練しか行われていなかったからである。アクシデント・マネージメントは、幅広くかつ深い知識と経験、すなわち原子炉物理、原発のシステムや機器の設計製作、運転操作、化学管理、放射線管理、設備のメンテナンスなどの知識と経験を必要とするものであり、さらにチームワークや冷静さ、機転、粘り強さなど考えうるすべてを要求されるものであることが視察によって理解出来た。

フランスの調査によって感じたアクシデント・マネージメントの重要性やフランスのやっている訓練の内容などを報告書にまとめ、協会内部はもちろん電事連や原子力委員会にまで説明し、業界紙にも掲載してもらったが、その後の本格的なアクシデント・マネージメント体制づくりや訓練にまでは結びつかなかったことは、いまだに悔やまれる。

福島第一原発の事故以降、各社各発電所でアクシデント・マネージメント訓練が盛んに行われるようになり、各社が原子力規制委員会に提出した報告や各社の情報開示により、その内容をある程度は知ることが出来る。今シリーズでは、下記に示すフランスで得たアクシデント・マネージメント訓練の内容に照らして、どのような点を補正し、さらに磨きをかけていく必要があるか、少し時間はかかるが各発電所により詳しい訓練内容をお聞きすることで、建設的な提言を書けるようにしていきたい。(つづく)

調査でわかったフランスのアクシデント・マネージメント訓練

・訓練の対象はフランスの全原発。原子炉メーカーであるアレバ社はEDFからこの対応チーム維持の委託を受けていた。
・訓練の頻度は月1回。訓練は、対象者各自の携帯電話への招集通知で突然スタートする。
・訓練は原則としてシナリオなし。発電所の状況はEDFからデータが送られ訓練室のパネルに表示される。
・原則、時間制限なし。スキップなしで事態が収束するまで行う。(過去最長は2日間)
・原子炉や重要設備の設計に熟知している人がメンバーにいる。
・アレバの各技術部門(原子炉物理、運転操作、機械、電気、制御、化学、放射線管理、広報)から専門性の高い人を出してチーム編成。24時間体制を取れるように4班編成にして当番の際はパリから離れないように拘束。彼らは普段、アレバ本社で設計などの業務に就いている。
・訓練の場所はパリのデファンスにあるアレバの本社ビル地下の専用の訓練室。広報部門の人は集結後、直ちにEDFに行き、先方との連絡係になる。
・時にはフェイクデータも入れて、フェイクであることを見抜く力もつける。
・訓練室には全原発の現場の系統図、配管図、建屋図面、機器配置図、機器設計図、敷地内建屋配置図、モニタリング装置配置図、運転手順書、主要データ表示装置などを備えている。これらは内容を常に最新のものに維持するためだけに女性職員2名がいる。
・メンバーは適時、発電所を訪問し運転員や保修員とのコミュニケーションを持ち、現場の状況について最新の状況を知るようにしている。
・挙動予測に使えるよう小型シミュレーターが訓練室のとなりにある。
・メンバーが出す対応案に対し、その対応により発電所がどのようになったかについて、次々にデータを示せるようにEDF側で反応する。
・軽食、休憩、仮眠などが出来る部屋を訓練室の隣りに確保。
・実際に大きなトラブルが発生するとこのチームが招集され活動する。(洪水で取水できなくなった時に対応した)

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