日本エネルギー会議

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原発停止の代償

福島第一原発の事故以降、全国各地の原発が停止したままであるが、その代償は巨額なものになっている。7月8日付の朝日新聞の記事「甘さが招いた原発停止、一蹴された電力のお願い」によれば、九州電力の川内原発の場合、停止により1基あたり年間480億円の燃料費増につながる見込みとある。仮に全国の原発のうち、廃炉を決定した17基と再稼働した5基以外の38基の原発が8年間停止していたとすると、480億円×38基×8年=14.6兆円の燃料費増が生じたことになる。(注)

もちろん原発を停止したことで運転にかかる費用の一部は支出を免れただろうがわずかなものだ。ところが、停止したことによる損失は代替のための火力の燃料費にとどまらない。原発や火力発電所は停止中でも設備の償却は進む。運転員は保安のために交替で勤務させ、下請けを使った設備の維持管理も続けている(新規制基準適合のための追加工事は除く)。原発の場合、減価償却費も維持費も火力発電所とは比較にならないほど多くかかる。原発の発電コストに資本費(減価償却費算出の元になるもの)と運転・保守費が大きな割合を占めているからだ。

そもそも減価償却の元になる資本費は原発1基で3000~5000億円と巨額である。年間の運転・保守費も火力発電所の3倍程度かかるとされている。
停止中の費用がどの程度かかっているか外部からは見えないが、それは資源エネルギー庁が発表している原発のkWhあたりのコスト(7.9円)から推定出来る。この8年間に掛かった費用は発電した電気の価値とほぼ同等と考えられるので、もし原発38基が8年間稼働していたとしてその発電量(kWh)に7.9円を掛ければ、8年間に掛かった費用と同じと考えて良いだろう。

火力発電所の場合、停止していてもコストに大きな割合を占める燃料費がかからないため、停止中の費用はそれほどかからない。それに比べて原発を止めると燃料費が助かるといってもそれは総コストの19%であり、資本費(39%)と運転・保守費(42%)はずっと発生するので電力会社として負担は大きい。通常行われているような原発をベースロードで運転し、需要の変動に対して火力発電所を使うやり方はきわめて経済合理性がある。

この8年間に原発が出せたであろう電気の価値は100万kWh×24時間×300日(稼働率80%)×7.9円(kWhあたりの発電単価)×38基×8年=約17.3兆円。 ここから発電したらかかっていた燃料費(コストの2割)を差し引くと約14兆円になる。は発電による収入は0円であった。

多数の原発を8年間停止させてきたことによる経済的損失は、代替のための火力発電の燃料費約14.6兆円と原発を維持するために支出した14兆円の合計約28.6兆円と考えられる。これを負担しているのは電気料金を払っている全国の消費者であり企業であるが、彼らには負担しているという自覚はない。

もし、これだけの代償を払っているということを知り、我が国の生命線がホルムズ海峡の安全航行に依存している現状を知ったとしても、なお多くの国民が原発に対する不信感、不安感、嫌悪感を捨て去ることにはならないだろう。各政党もこれに迎合した政策を出しており、参議院選の福島県の自民党候補者は県外の原発の再稼働や全国の原発廃炉などに関するアンケート調査に「期限までに回答をしない」という苦しい対応をしている。
こうしたことが今回の福島第一原発の事故の後遺症の最も深刻な部分である。評論家の長谷川慶太郎が近著で、「原発再稼働・新増設が出来なければ日本は国際競争力で中国・アメリカに取り残されてしまうだろう」と書いているが、そうなる可能性が高い。
(注)経済産業省は2011年度~2015年度末までの5年間に14.7兆円増加したとしている。8年分に換算すると約24兆円となる。

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