日本エネルギー会議

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偉人たちの選択(1)

毎週楽しみにしているテレビ番組がある。毎週水曜日の夜NHKBSプレミアム「偉人たちの選択」だ。NHKはウェブでこの番組を「歴史を大きく変える決断をした英雄たち。その心の中に分け入り、ほかにどのような選択肢があったのか?選択の崖っぷちに立たされた英雄たちが体験したであろう葛藤を、専門家の考証に基づいて復元。独自アニメーションなどを駆使してシミュレーションする」と紹介している。歴史学者の磯田道史が司会で異分野の専門家が集結。英雄たちに迫られた選択のメリットやリスクを検討し、歴史的決断の意味を深く掘り下げていく。歴史に「もし」はないが、今抱えている大きな課題やこれから遭遇するであろう問題に当たっての参考にはなる。

原子力開発の歴史でも重要な決断の場面があった。すぐに思い浮かぶのは2002年の東京電力の福島第一・第二原発での一連の不祥事、隠蔽、データ捏造がGEの元技術者の内部告発で発覚したときだ。その後の調査で、それ以外にも国の検査官を欺くためにメーカー技術者の提案を受けて実際には故障したままのポンプが動いたように計器の針だけを動かすという偽装工作までやっていたことが明らかになった。南直哉社長は記者会見で「言い訳になってしまうが、どんな小さな傷もあってはならないという基準が、実態に合っていない」と述べたが、それより企業体質や経営理念の問題は深刻であり、果たして東京電力が原子力を扱える資格がある企業なのかと世論は沸騰した。

ここで東京電力のみならず電力業界で実質トップとして君臨していた荒木浩会長は大きな選択を迫られたと思われる。
その選択とは
1.何につけても原発最優先の方針を転換する。
2.体制、運営方法などを一新する。
3.会長、社長と関係役員の辞任で批判をしのぐ。

「1」に関しては前のめりになっていた原子力開発を見直し、原子力部門に与えていた予算・人事での優遇措置を止める。既設炉の根本的な安全性向上投資、原発廃炉積立金の積み増し、送配電網の強化、再生可能エネルギーや蓄電池への投資を加速する。

「2」に関しては原子力部門の本体から切り離しによる独立。異質の文化を持つ日本原電の吸収合併。メーカー完全依存からの脱却のため直営工事への挑戦など社員の技術力向上と意識の変革、海外の合理的な管理運営方法の導入、原子炉主任技術者をトップに意識の高い監視専門のグループを発電所内につくり、所長の指揮下には入れず、本社直轄にする。労働組合に監視の役割を担ってもらい直接会長、社長に情報を入れてもらえるようにする。
などが考えられる。

実際は「3」が選択され、世間を納得させることを狙いに、那須翔相談役(当時77歳)、平岩外四相談役(当時88歳)まで遡って引退してもらった。しかし、実際は荒木院政になっただけで社内の体質改善にはつながらず、原子力部門でも順送り人事が行われ大胆な登用は見送られた。管理運用面でも基本路線は変更しなかった。

国も原子力安全・保安院が告発を受け、いままで放置していた責任を追求されたこと、他電力でも隠蔽改ざんが次々に出てきたこともあり事を大きくしたくなかった。経済産業省は組織的に改竄が行われていた疑いがあると見て、原子炉等規制法で刑事告発も検討したが結局厳重注意にとどまった。東京電力は自らや電事連の政治力で国会やメディア対応を乗り切れる、地元の不信も一時的なもので先々収まる、原発停止による電力不足は旧式の火力再稼働で凌げると読んだ。この読みは当たり事態は収束していったが、千載一遇の改革機会を自ら逃すことになった。この「東京電力トップの選択」は、私たちが「関西電力の未曾有の危機」を考えるにあたっての参考になるはずだ。

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