日本エネルギー会議

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日本の行動様式と考え方(2)

元政府事故調査・検証委員会の委員長畑村洋太郎が「世界中の知識や科学を総動員して日本の行動様式や考え方にある欠陥、欠点を改めるべき時期だ」と指摘している。原子力界で働いていた私の経験から、具体的にはどのような欠陥、欠点があったのか、またそれを改める方法があるのかを考えたい。今回は「形式主義」を取り上げる。

福島第一原発の事故に限っても形式主義だったと反省しなくてはならないことは山ほどある。例えば事故訓練が形式的で過酷事故の訓練は起こりえないとしてパスし、なおかつシナリオに基づいたお芝居のような訓練をした挙句、監督官庁もそれを黙認し、メディアも「訓練は淡々と実施された」と報じ無批判だった。昨日取り壊しが始まった大熊町にあるオフサイトセンターも形ばかりで実際にはほとんど役に立たなかった。福島第一原発の事故が起きる前は、原子力関係の計画、審議、検査、説明、教育、防災などありとあらゆるところが形式主義に冒されていたと言ってもよい。

フランスの原発の圧力容器を製造する工場内では特定の作業のみヘルメット着用を義務付けているがそれ以外は見学者も含め着用は免除している。これに対して日本では原発構内はもちろん中央制御室までの何の危険性もない通路でも誰もがヘルメット着用となっている。小さなことにこだわり大局的にものを見ない形式主義は日本のお家芸であり、原子力に限らず社会に蔓延している。

何故、日本人が「形式至上主義」になるかと言えば、中身より形式がよく整っていればそれはすばらしいものだという観念が強いからだ。また、伝統的に日本人は生活のあらゆる面で美を追求する傾向があり、美は最高の価値を持ち、しばしば「花より団子」ではなく「団子より花」の判断をする。日本では形の美しさは物事を判断するうえで大切な要素なのだ。習い事はまず形から入る。伝統にこだわり、先輩方のやったと同じようにやることが大切だ。「心は形を求め、形は心をすすめる」これは、古典芸能のセオリーであり、かつて地下鉄末広町駅の仏具屋の広告にも書かれていた。

意地悪な見方をすれば、個人が形式主義に流れる理由は、何も考えずに済み先輩たちからの批判も来ないからだ。新しいことをやれば、それは先輩たちの批判になる側面を持つ。形式どおりにやっておけば何かあっても実績をたてに従来通りやっていると言い訳が出来る。

日本人は形式美が好きだが、ずる賢い者はこれを利用して手抜きをする。文書主義で育ったハンコ行政もこの一種だ。まず形式を審査し、それが合格すれば次に中身について吟味するということであればよいのだが、殆どの場合、形式審査で合格させてしまう。それで失敗をすると基準や形式を改める。基準や形式の細部をつくればつくるほど書類が多くなり、時間的制約からさらに形式主義に陥る。大量の文書をつくりハンコの数が増えて中身を見ていない。形式が整っていれば事故の際に責任を問いづらくなる。原因を規定がまずかったことに出来るからだ。

この「形式主義」が現実の世界に持ち込まれると恐ろしいことが起きる。井伊直弼は登城の際に大名行列を行い桜田門外で水戸の浪士に討たれてしまった。テロに対して危険な縦長な隊列形式を改めようとは考えなかったのだ。原子力など科学技術の世界に形式主義を持ち込んではいけないことは当然だ。福島第一原発でも事故の前に、事故訓練の内容ややり方を改めようとしても形式主義が蔓延っていて困難であった。福島第一原発の事故の何年か前に、原産協会や電事連で欧州視察報告が行われた際、「日本もフランスのような実戦的な事故訓練を取り入れるべきだ」との報告に出席者は一様に困惑気味だった。
形式主義は最悪の事態を想定しない傾向がある。リスクを考える際に、実際に最悪の事態が起きたとしてそこから逆に考えるようにする必要がある。原発では過酷事故が発生して放射能が敷地の外に出て行っている状況から遡って事故の発端になることを考えるべきだ。だが、それは福島第一原発の事故以前、電力会社ではタブーに近かった。あの大きな事故は形式主義を打ち砕いたように思えたが、実際はそうではなく、形式主義は新たな復活を遂げつつあるようだ。

形式主義を治すことはなかなか難しいが、工場で行われている三現主義を監督官庁、電力会社やメーカーの本店にまで広く普及されることが考えられる。三現主義とは、“現場”“現物”“現実”の3つの“現”を重視し、机上ではなく、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図らなければならないという考え方のことだ。形式主義が良くないことは福島第一原発の事故をはじめ多くの事例がある。この事例研究を積み重ねて行くことも大切だ。

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