日本エネルギー会議

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原発事故の影響(2)

もうすぐ福島第一原発の事故から9年が経過する。これだけの時間がたつと福島第一原発の事故がどのような影響をもたらしたのかが見えてくる。
この9年間に事故の収束と廃炉、県内各地域の除染、賠償に巨額の金と多くの労力が使われた。現在もなお、残された課題の解決にどのくらいの時間がかかるか、いくら掛かるか見通せない状況だ。そもそも課題の内容についてまだ合意がされていないものが多い。例えば、廃炉と言っても最終的な形はいくつか考えられ、どれを選ぶかによって時間も予算も変わってくる。
そこで現在、課題としてはどのようなものがあり、何が不確定要素かなどについて整理してみる。

(1)廃炉
福島第一原発6基のうち1~4号機は事故炉であり、通常の廃炉とは内容が大きく異なる。特にメルトダウンした炉は燃料デブリをどうするかで工事の内容、期間が大きく違ってくる。現在はまだ内部の状況調査のための準備段階であり、内容を確定するのはまだ先のこととなる。チェルノブイリ原発のような石棺方式から完全撤去して更地にする方式まで、要する期間や費用は大きく幅があり、地元の合意も必要であるため、どのような方式にするかが決まるまではまだ紆余曲折があると思われる。
5、6号機と福島第二原発の1~4号機は通常の廃炉工事となるが、限られた人手を考えるとすべて並行して廃炉を進めるのは無理だ。福島第二原発については先ごろ40年間の大まかな工程が示されたが、いつから開始出来るかは定かではない。事故は起こさなかったとはいえ、原発を解体すれば、低レベル、中レベル、高レベルの放射性廃棄物が発生する。これをどのように保管するか、最終処分するかは先行する国内のどの原発の廃炉でも決まっていない。
最終処分先が決定するまで、解体物は福島第一原発、第二原発の構内に長期に保管されるが、その期間や方法について地元の了解を取らねばならないはずである。ただし、福島第一原発では今のところ廃炉工事の一過程として地元は黙認しているようである。

(2)使用済み燃料の処理処分
事故時、福島第一原発の使用済み燃料の多くは4号機のプールにあったが、今では構内の別建屋の使用済み燃料プールに保管されている。福島第二原発の使用済み燃料とともにいずれは青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場に持ち込まれ再処理される計画だったが、現在再処理工場にはプールに余裕がなく、いずれは青森県のむつ市にある東京電力と日本原電の所有するリサイクル燃料保管施設に送られるしかないが、それまでは構内で独立した建物で乾式貯蔵されると思われる。そこからの搬出時期は未定である。

(3)汚染水の処理処分
汚染水から放射能を除去しているが、除去が不十分なものもあり、これを再度処理する必要がある。また、約1000基のタンクに貯蔵している処理後の水にトリチウムが含まれており、今後希釈して海洋放流するなどの処分方法を決定し実施しなくてはならないが、実施には数十年を要する。また、地下水が原子炉建屋地下に流入して1日170トン程度の汚染水を新たに発生させているがこの発生を極力減らす必要がある。そうでないと希釈放流してもまた新たなトリチウムを含む水が供給され、いつまでも放流が続いてしまう。長期の汚染水貯蔵となる場合はタンクを更新する必要があり、使用済みとなったタンクの解体処分も必要となる。

(4)避難区域の解除、除染土壌の処理処分
現在、依然として帰還困難区域の大半が除染されておらず、住民の帰還や区域内での活動に制限がある。除染を促進して可能な限り早期に帰還困難区域の解除をする必要がある。大熊町と双葉町にまたがる中間貯蔵施設への汚染土壌などの搬入が進んではいるが、地元には30年後には県外に搬出することを約束しており、国は減容や再利用とともに確実な保管管理と県外の最終処分場探しをする必要がある。

(5)住民の健康管理、ストレス対策
県が中心となって県民の健康調査が行われている。現在のところ放射線障害に関しては特段の問題は見つかっていないが、子供の甲状腺検査も含め長期的にも問題がないことを確認していく必要がある。
県内各地にあるモニタリング装置について表示される数値が全国レベルに低下したために原子力規制庁が撤去をしようとしたがすぐに住民から反対の声が上がり存続となった。廃炉中の原発の安全性や環境放射線に対する住民の警戒心は9年経っても解けていない。また、東日本大震災の被災県の中では福島県の関連死が最も多かったこともあり、ストレスや肥満傾向についても他の県と比較して明らかであり、引き続きこれを改善する取り組みを続けて行く必要があるが、検診やアンケート調査は実施率も上がらないまま漫然と続けられている。自主避難者の問題、区域による賠償の差などに起因する県民同士のわだかまりなども完全になくなっているわけではない。避難先に移住した人々の多くが地域に完全に溶け込まずにいる。

(6)風評被害の払拭
福島県や浜通り地域の農林水産業が出荷する産物への放射能に関する国内外の不安感、偏見を取り除く必要がある。9年経ってようやく全数検査からサンプリング検査に移行しようとしている状況だ。いかに長い時間がかかるかがわかる。これには消費者への理解活動とともに流通における信頼性を取り戻す取り組みを粘り強く行っていく必要がある。トリチウムが含まれる大量の水を海洋放流した場合の風評被害対策は、はたして漁業者の理解を得られるか、大変厳しい対応を迫られている。

(7)賠償
賠償は大半が終了している。時効はないとしているが未請求や未合意のものもあり総額は確定していない。また、最近は傷病関連、事業収入関連での賠償打ち切りやADRの和解案を東京電力が拒否することが多くなっていて被害者から不満が出ている。賠償の初期においては賠償を早く実施しようとして東京電力は賠償請求内容の審査が不十分であったり、原発の立地自治体の住民を特に手厚くしたりするなどの傾向もあったため賠償額が少なかった人々は賠償のやり方、基準などに疑問を抱いたままである。

(8)地元の復興
自治体はインフラ整備などを盛んに行っているが、原発周辺の自治体では解除された区域への住民の帰還率が低いままである。原因は避難が長期化したことと不動産や精神的苦痛に対する多額の賠償が行われたため、避難先などに家を建てて実質的に移住した住民が多いこと、既に新たな職場や学校との関係が出来たことである。その場合も住民票を移すことを強制していないため統計上ではこの問題がわからないようになっている。廃炉工事などのために来た新住民の数が増えているが、この人々が定着するかも不明である。JR常磐線の全線開通、高速道路の整備、公営住宅建設、商業施設再開も進んでいるが、どのようにして以前の人口に近づけ、採算ベースにもっていけるかはどこの自治体も見通しがつかない状況だ。

このように見てくると、福島第一原発の事故の影響は少なくなるどころか、解決がより困難な課題が次々と明らかになっているのがわかる。廃炉そのものが9年たったが、まだ手探りの状態であり、しっかりした計画を作ることが出来ないことが最大の不確定要素である。汚染水の処理処分に関してはタンクを建設する場所がなくなるなどタイムリミットが迫っている状況だ。また、除染による土壌の処分先、使用済み燃料や解体にともなう放射性廃棄物の保管先、処分先なども地元との約束はしたが、この間、事態は変わらず先送りされたままで何の進展もない。このままではいずれ廃炉作業を進めることさえ出来なくなることも考えられる。それは地元にとって受け入れがたいことである。

結局、追加の補償を地元に行う条件で、処理後の汚染水は希釈して海洋に放流、中間貯蔵施設は放射能が半減した汚染土壌などの保管期限をさらに先延ばし、解体した残材や高レベル放射性廃棄物、燃料デブリは期限なしで敷地内に仮置きを認めるという苦渋の決断を地元がしなくてはならない日が来るのではないか。

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