日本エネルギー会議

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頭がいっぱいの状態

 福島第一原発の事故後、欧米の原発でベント配管にフィルターがついていたり、弁の手動操作を遠くから
出来るようになっていたりするなど、日本より進んだ安全対策が実施されていたことを知って、今まで日本の原発は
世界で最も安全だと聞かされていた人々は驚いた。
 関係者がこれらの海外の情報を知らなかったわけではない。
今日、我が国の技術者には、多くの海外情報に接する機会がある。だが、情報を実際に国内で活かせる環境になく、
情報を取ろうとする意欲が全体として薄れていた。
 海外情報に目を向けなくなったのは、大きく分けて二つの理由がある。
ひとつには、多忙だ。電力関係者は規制当局から次々に事故トラブルの水平展開を求められ、目の前の仕事で
手一杯で、積み上がった宿題をやるのがやっとだった。事実、耐震補強をやるだけで予算も人もギリギリで、
津波対策など手がつかない状況だった。保安規定に品質保証の考え方をいれたことで、検査や審査を
受けるために膨大な証拠づくりのための資料作成業務に悩まされ、物を考える時間がなくなった。
これに経営からのコストダウン要求と稼働率向上要求が加わった。
 ふたつ目は、国も業界も護送船団方式で全体を考えてきたことだ。護送船団方式とは一番遅い船に合わせて
全体の航行スピードを決める。一隻たりとも脱落しないようにしようとすれば、速い船がゆっくり走るしかない。
原発が運転されてから既に40年が経過し、初期の原発の安全性が見劣りするのは否めない。
そのために、ランク付けや炉型の比較を嫌がった。数年前に、私が雑誌に過去10年間の日本の全原発の
稼働率を高い順に棒グラフにして出したら、今まで見たこともない資料だと言われたくらいだ。
 古い原発の運転をしている人にとって、画期的な安全設備を取り入れたAP-1000やEPRは迷惑な存在だった
はずだ。地元に対して型が古くても安全だという説明をしなくてはならないからだ。
追加投資は原発の投資回収を遅らせ、運転終了までに料金で回収出来ない可能性がある。
また、稼働率を上げるという命題の下では、改造による長期停止や廃炉はなんとか避けたいものだ。
 このような状況では、安全向上に資する海外情報があっても、それを取り入れようと提案すれば、
目先のことで頭がいっぱいの上司からは、あちこちやっている余裕はないと叱られる。強硬に主張すれば、
物事のわからない奴と、排除される。うまく説得できたとしても、課題として先送りされることになりがちだ。
規制当局も裁判に影響することや反対派に突っ込まれるネタになるので、安全性を高める海外情報を得ても、
あえて電力会社に検討を促しはしない。
こうして海外情報取得に対する意欲は落ち、国際交流は単に付き合いのためのものとなった。

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