日本エネルギー会議

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被災者の味方

 福島第一原発の事故の損害賠償に関する紛争仲介をしているのが通称ADRと呼ばれる機関である。正式名称は「原子力損害賠償紛争解決センター」という。何万人という被災者が訴えを起し、裁判ともなれば長期化するため、裁判によらず早期に解決をすることで、被災者の負担を減らそうと文部科学省の下に作られた。東京電力が行なっている賠償内容について、不満のある人などは、裁判に行く前にこのADRに仲介を申し立てることになる。ここの仲介委員や調査官と呼ばれる担当者は弁護士である。
 これとは別に第三者の立場から被災者に寄り添い、相談に応じ、必要な助言と情報提供を行うため政府等の出資で、「原子力損害賠償支援機構」が作られた。電話相談や県内4ヶ所、県外16ヶ所にある相談窓口で、弁護士による対面相談が無料で受けられるようになっている。被災者はこの二つの機関の世話になりながら東京電力に賠償を求めて行くことになる。二つの機関は名前が似ているのだが、実際に接してみると、性格の違いを感じることが多い。
 ADRは裁判所の和解のようなもので、仲介委員が東京電力(実際は東京電力が雇った弁護士)と申立人(被災者)の主張を聞いて和解案を提示する。ADRの調査官は、仲介委員と同じく公正中立ということで、特別に被災者の味方をするわけでもない。口頭審理では、被災者は誰の援助もなしに東京電力の弁護士と渡り合わねばならない。被災者以外は法曹界だから彼らの中では、考え方や言葉は共通。被災者は単なる素人である。仲介委員と東京電力の弁護士が顔を見合わせて笑ったりすれば、被災者は孤独感を抱く。調査官は特に被災者の弁護をするわけでもないし、議事録も作成しない。審理ともなれば、被災者は主張しながら自分で記録も取らねばならないので大変だ。また、仲介委員はセンター側で指名するから、いわゆる当たり外れがあり、頭から東京電力の弁護士の主張を認める場合もある。これに対して、裁判所の和解のように、申立人の方から裁判所に仲介委員を変えるように願い出るような制度はない。どんな仲介委員なるかは運頼みとなるが、これはいささか不公平だ。
 一方、支援機構はさまざまな助言をしてくれる。どのような賠償請求をすべきか、東京電力の弁護士から送ってくる東京電力の主張に対してどのような反論を用意すべきかなど教えてくれる。また、「仲介委員や調査官は敵にまわすと良いことはないので、気にいらなくても絶対に怒らせないように」などと注意もしてくれる。しかし、支援機構の弁護士は審理の場には出てもらえないから、被災者は孤軍奮闘せねばならない。
 「東京電力の弁護士はまったく理屈にならない理屈で全面的に訴えを否認してきた」と言う被災者には、「あちらの弁護士は東京電力から金をもらってやっているわけですから、心の底ではこれは違うと思っていても、とにかく全部否定していくのが依頼者である東京電力のためですから、気にしてはいけません」などと支援機構の弁護士は慰めてくれる。
 東京電力は何千件というADRへの申立に対応するために、多額の弁護士費用を使っているが、それも関東地方の消費者が支払っている、おかげで儲けているのは弁護士ばかりだと考えると、被災者としても気持ちは複雑だ。

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