日本エネルギー会議

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原発災害の実像

 原子力損害の賠償に関する法律は、原発災害を対象に作られている、また原子力防災計画も原発災害の際の対応について書かれている。しかし、それらはあくまで経験のない原発事故を想定して作られたものであり、具体的な事例を基にしたものではなかった。
 幸か不幸か、福島第一原発の事故は原発が自然災害とともに過酷事故を起こしたら、原発そのものや周辺地域がどのようになるのかの実例を、我々に示してくれた。事故対応に当たった者たちは、水素爆発の威力も経験した。構内に流れ込んだ海水はタンクを簡単に浮揚させ通路を塞いでしまった。住民は後で、現地にいた規制当局の人間がいち早く逃げ出したことも知ったし、自衛隊や消防庁の人々が身を呈して収束作業にあたったくれたことにも感銘を受けた。
 あの事故は、一つ間違えばもっと被害が大きくなる可能性が十分にあった。区域解除をしても住民は半分しか戻らない。2年以上たっても賠償は遅々として進んでいない。いまだに建家に流れ込む地下水で増え続ける汚染水の処理に苦慮している。事故原因も解明されていない部分が多い。
 関係者にとってほとんどが想定外のことであったが、これが原発の過酷事故の実像だ。今後は、設計にせよ、規制にせよ、防災にせよすべてはここからスタートしなければならないはずだ。一つ一つの事実を丹念に拾い上げて、昆虫標本を作るように、事故の一部始終をきちんと整理しておくべきだが、どこまで行われているのだろうか。
 新しい規制基準に盛り込まれるのはほんの一部である。他のことも、「あの時は大変だったなあ」という関係者のほろ苦い思い出に終わってはならない。ましてや終戦の日に軍が機密書類を焼き払ったようなことは行われてはならない。
 あの時、何が起きたのか、何故起きたのか、それはなぜ拡大していったのか、足りなかったことは何か。関係者の手で、一つ一つ丹念に記録、分析が行なわれるべきである。
 日本人は何か事が起きると、その現象や原因を一言で言い表すことが好きだ。もっともらしい「まとめ」や「断定」をして、すっかり満足してしまう。だが、それはサイダーを飲んだようにすっきりするだけで事故を再び起こさないための具体策にはつながらないのである。そういったものは評論家に任せて、関係者は面倒な作業を続けて、原発の過酷事故のリスクを少しでも下げていかねばならない。

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