日本エネルギー会議

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除染に関する政策転換

 多大な税金を投入しているにもかかわらず福島の復興を妨げている「1ミリシーベルト(mSv)の除染目標」を、なんとかしなくてはならないとの声が上がっている。雑誌WillやインターネットサイトGEPRで経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏が取り上げているように、前政権が決めて現政権にも引き継がれている被災者に迎合した除染目標は、この先、財政難の国家や電力料金値上げに苦しむ消費者に大きな負担を強いることになる。
 記事の中で、私が2012年9月の住民説明会で「国側の1ミリシーベルト発言に驚いた」とあるが、その後、2013年2月の第二回住民説明会で、私は「前回、副大臣が1ミリシーベルトになるまで毎年予算をつけて除染をすると言ったが、半年経った現在もそれは変わらないのか。撤回するつもりはないのか」と質問した。これに対する国の審議官の答えは「副大臣の発言は撤回しない」であった。(富岡町の記録による)
 どうやら、この質問は国側を穴から引き出すのではなく、穴の中に追い込んでしまう結果となってしまったようで後味が悪い。まるで原発の安全神話の罠に規制当局や事業者がハマったかのようである。避難している住民からは「効果もはっきりしない除染は止めて、その金を我々の賠償の方にまわせ」とか、「自分で除染するから、その手間賃を払ってくれ」といった意見が出た。
 除染に関する政策転換をどのようにしたらよいかのヒントは「個人被ばく管理」にある。そもそも1ミリシーベルトにする目的は何かと言えば、その一つは、住民の被ばくを抑えるためのはず。除染はその手段だ。
 原発など放射能汚染のある原子力関連の事業所では、汚染区域を除染して汚染レベルを下げるとともに、区域に立ち入る従事者には個人線量計を装着させ、出入りの際には汚染検査をし、定期的にホールボディカウンターで内部被ばくの検査をし、個人毎の被ばく線量を管理している。中央登録制度により全国どこの事業所に移動して仕事をしても、外部被ばくと内部ひばくはすべて集計されて一元管理と本人への通知が実施されている。
 福島第一原発の事故による住民の被ばくも、避難した人を中心に同じように個人管理をすれば、一番確実で安心なのであり、特別高い値が出た人についてより厳重な管理をすれば、除染に関して1ミリシーベルトの目標などしなくても良いはずだ。現在、旧警戒区域などに立ち入る以外には問題になるような被ばくはないが、福島市など一部線量が高いところの住民が希望すれば対象と出来るようにすれば良い。食品については、そのものの検査をすることで、汚染のあるものが市場に出回らないよう出荷制限をしており、いわば個人被ばく管理のようなことが出来ている。ところが、人に対しては出来ていないということだ。
 福島第一原発の事故で警戒区域が設定された以降、わずかな例外はあるものの、立ち入る住民に対しては線量計の装着が義務化され、内閣府の管轄下にある中継基地という出入り口では、立ち入り毎の線量が記録されている。先日も数時間の自宅立ち入り後、線量計を返却した際、私と妻の線量が2倍ほど違うことに対して係員より質問があり、「妻は家の中にいましたが、私はほとんど庭で作業をしていました」と答えると「それでわかりました」と係員に言われたので、その程度の管理はしているのだとわかった。ただし、データの保管は念の為にやっており、法律や規則に基づくものではないと説明された。
 区域再編後の現在は「帰還困難区域」に立ち入る住民に対してだけ、同じような管理が行われている。また、福島県民に対しては県立医科大学が県からの委託で、事故発生から三ヶ月間の推定被ばく線量を当時の行動アンケート調査に基づいて行なって記録するとともに本人に結果を通知している。(残念なことに2年以上経過している現在も、評価したのは、まだ対象の3割に達していない)
 自治体では空間線量を測定する機器や個人線量計や、それらを記録するための記録帳を各世帯に配布したりしているが、これが市町村によってばらばらで統一が取れていないし、県もそれを統一しようとしていない。原子力規制委員会が、指導したという話も聞いたことがない。
 測定されたこれらの数値は合算されて一元的に管理されていないため、個人被ばく管理が実質的に行われていないのが問題なのだ。県のホームページでは、被ばくに関するデータベースを構築すると書いてあるが、どのようにやるかはまったく決まっていない。この点をエッセイに書き、国、県、市町村に訴え続けているが、いまだに動きがない。一元管理の必要性は認めるものの、どこも責任の所在については避けている。「そうした法律がないから」などという迷回答まである。
 除染に関する政策転換をするには、先に述べたような個人被ばく管理をきちんと出来る体制をつくるなどの条件整備が必要である。この条件整備は本来やらなければいけないことであるとともに、除染のように長期間に何千億円もかけなくても、短期間で出来ることである。私は除染をしなくてもいいと言っているのではない。帰還困難区域にある自宅の庭先は、ぜひとも早急に新たな基準と方法で効率的な除染作業をしてもらいたいと思っていることを付け加えておく。

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