日本エネルギー会議

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所長の器

 福島第一原発の所長であった吉田昌郎氏が本日亡くなった。「現場のスタッフに命の危険をおかして対応してもらった彼のリーダーシップは感謝してあまりある」「事故当時、彼がいなかったら日本の運命が変わったはず」「現場の状況を理解しない本店幹部にずけずけ物を言う一方で、苦労を共にする所員や下請け企業の作業員への心配りは忘れず、現場での信任は厚かった」などのコメントがメディアを通じて伝えられた。メルトダウンを免れた福島第二原発の元所長増田氏や東海第二原発の剱田所長の手腕に対しも賞賛の声が上がっている。
 地元自治体である双葉町長も「事故収束のために命がけで闘ってくれた。一日も早い回復を祈っていたので残念だ」と述べているが、地元では必ずしもそうではない。仮設住宅では、「努力したことには感謝するが、話を聞くと本社の時代に津波対策をやらなかったらしいので、責任はある」「死んだ人のことはいろいろ言ってもしかたがない。生きている避難者のことをもっとしっかりやってほしい」などの声も出ている。
 吉田所長等の功績は大きかったが、「所長が吉田氏でよかった」と言っていられるのだろうか。それでは原発立地地域の運命があまりにも運任せではないのか。リーダーシップは持って生まれた素質も、育ち方もある。また、組織の中でリーダーの薫陶を受けながら、あるいはリーダーのあり方を目の前で見ながら作り上げられていくものだ。過酷事故の対応における所長の存在がクローズアップされたが、その育成、選任についてはハード面の安全対策に比べて不十分だ。
 かつて東海原発は、日本で初めて事務系の管理職を所長に任命した。福島第二原発の増田前所長の前任者は、現在、東京電力福島復興本社代表の石崎氏でこれまた事務系の人だった。もちろん、技術系の副所長は配置されていたが。当直長と呼ばれる運転責任者や原子炉主任技術者は、口頭試問を含む国家試験が課せられているが、所長については何もない。電力会社では、今までの実績を見ると、経営陣の中で原子力部門のトップになるためのキャリアとして何年間か現地の所長経験をさせることが行われていた。船長や機長などの例も参考にしながら、所長の選任条件を考える必要がある。
 過酷事故を実際に考えていたとしたら、所長の条件だけでなく、その体制ももっとしっかりしたものとなっていたはずだ。私も現役時代、事故やトラブルで徹夜をしたことがあるが、二日もやれば朦朧として頭が働かなくなる。特に50代からの徹夜はきつい。アメリカのカンサス州にあるウォルフクリーク原発を定検中に訪問したことがあるが、定検中は所員を所長組と副所長組に二分して、午前7時から午後7時の勤務の第一班と午後7時から朝の7時までの勤務の第二班にわけ、完全な交代制を取っていた。こうすることで、夜中でも入域手続きや教育もやり、食事もいつでも食べられた。さすがにアメリカは合理的だと感心したものだ。
 国や県の原子力災害対策本部や電力会社の本店の体制も、現場の体制とともに再考すべきだ。福島第一原発の事故当時、原子力災害対策本部長であった菅元総理は、吉田氏の死去について、「大変なリーダーシップを発揮し、決断力を持って事に当たった。原発事故が拡大しないで済んだのは、吉田氏によるところが大きかった」と述べている。菅氏が本部長の器だったかどうかは別として、有事の際のリーダーの養成と実戦的な体制づくりを真剣に模索する必要がある。

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