日本エネルギー会議

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安易な希望

 先日、福島県で知事と双葉郡8町村の首長との意見交換会で、「住民に安易な希望をいつまで持たせるのか」という言葉が首長側から飛び出した。国の財政支援の約束、さらなる除染や除染のスピードアップ、説得力のある放射線量の安全基準の明示、仮設住宅に代わる公営住宅建設、農地転用の緩和など、地元が要望していることが、なかなか進まない中での発言だ。
 事故後、二年半にもなろうというのに、避難指示が解除された区域にも人は戻らず、まして区域指定されたところは再編こそ行われたが、地域の復興の絵が描けないままである。このような苛立ちは国側にもあるらしく、先の石原環境大臣の「地元自治体の皆さんが福島のために自ら行動するという認識を持っていただくことが大切」との発言もあり、反発を招いてしまった。それだけではない。原子炉の冷却や廃炉に向けての東京電力の取り組みは、しばしばトラブルを起こしており、特に最近の汚染水問題は一向に先が見えない状況だ。
 避難当初、住民の多くは聞かれれば「早く戻って元の生活がしたい」と言っていたが、これに対して国はあえて水を差すようなことは言わず、早期の除染や地域復興に全力で取り組むと繰り返していた。日本の場合はチェルノブイリのようなことにはならないと説明していた。ところが、実際には住民が帰還する気になるような状況にはなっていない。
 それもこれも、年間1ミリシーベルトになるまでは除染するとか、賠償を速やかに進める、仮の町を早期に建設するなどと耳障りの良いことばかり言ってきたツケだ。
 除染や復興の実態が明らかになるにつれて、住民への帰還の意思を尋ねるアンケート調査で「帰還しない」のパーセンテージが毎回増加している。当初、自治体は、若い人は戻らないが高齢者は戻ると読んでいたが、高齢者も歳を考えると、便利な都会暮らしの方を選択し始めている。
 首長たちは時間が経過するにつれて、戻る人が少なくなって遂には一つの町村として成り立たなくなりそうなことに苛立っている。すると高齢過疎の町をどのようにしてコンパクトに暮らしやすくして、徐々に若い人たちにも戻ってきてもらおうという計画は成り立たなくなってしまう。もともと町が三つの区域に分けられて、放射線レベルの低い方から徐々に帰れるようにするということにも無理があるようだ。誰もがそんな中途半端な所へは戻りたくないのだ。
富岡町と浪江町の三分の一、大熊町と双葉町のほとんどが「帰還困難区域」に指定されたが、年限もつけずに帰還困難などとされた住民は、高齢者でさえ戻る意欲を失うのは当然だ。一時帰宅すると、周りの家々は片付けや草刈りもほとんどしていないし、いわき市などでは避難者からの需要で不動産価格がピークに達している。首長たちの心配をよそに、住民たちは「安易な希望」を、とっくに捨てているようにも思える。

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