日本エネルギー会議

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原発と金融資本

東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働に向けて、原子力委員会に安全審査を申請した。このニュースでは、地元新潟県の泉田知事が達成することがかなり難しそうな条件付きで申請を認めたことが話題となったが、一方で東京電力が10月末に借り換えが必要な800億円の融資を銀行団が認める条件としての、来期以降の収益改善に道筋をつけることが出来て、東京電力側は安堵したとも報じられている。

原発再稼働に金融機関の話が出てくるのもいささか場違いな感じもするが、東京電力は会社経営を破綻させては終わりなので、早期には再稼働のあてがなくとも、とりあえず申請を出せて破綻を回避出来そうになったことの方が大切だったようだ。電力会社の株主総会でも原発問題で金融機関の名前が出てくる。多くの電力会社では、毎年のように脱原発議案が株主から提出される。しかしそれらは金融機関など大量の株式を保有する機関によって否決されることがこれまでの常であり、福島第一原発の事故以降、かつてないほど反原発が勢いづいた状況でも同じように否決された。銀行、保険会社、証券会社などの金融機関は電力会社にとっては意が通じる安定した大株主であり、原発維持のためには心強い存在だ。

逆に、金融機関にとって電力会社とはどのような存在であったのか。銀行や保険会社は電力会社の株を大量に保有することによって安定した配当を得ていた。配当は少なくとも福島第一原発の事故までは、極めて安定し、かつ高いレベルであった。資金の貸付に関しても、電力会社には担保が十分すぎるくらいあり、独占企業であるために収益は安定し、長期の貸出によってほぼ永久的に高水準の利息が入ってくる超優良貸出先だった。膨大な借金をしても、その利息は総括原価方式では事業報酬の構成要素となり電力会社の利益を増やす働きがある。

原発の建設には、一基数千億円を必要とするため、社債発行が行われたがその幹事会社を担当することは証券会社にとって大きな利益をもたらした。金融機関はこぞって電力会社の社債を保有しようとした。今回の事故で話題となった原子力損害賠償保険は、大手の損害保険会社がプールをつくって長年対応してきたが、巨額の保険料収入に対してほとんど保険金支払い実績のないものであった。六カ所村の日本原燃の再処理工場を始めとするいわゆる三点セットの建設費の大半は電力会社の裏付け保証のもとでの金融機関からの借り入れによっている。原発を巡る電力会社と金融機関の関係はこのように密接なものであることは、関係者の広く知るところであるが、一般の人たちには十分認識されてはいなかった。原子力村と言った場合、金融機関まで入れる人は少ない。だが、電力会社の経営にとって金融機関の意向は、なによりも配慮すべきものである。福島第一原発の事故は、巨額の債権と大量の株式を保有する金融機関にとって、かつてない大きな影響をもたらした。電力会社の経営状況次第では、日本原燃に対する巨額の貸付の返済にも影響を及ぼしかねない。

資本主義国である我が国において、金融資本はメガバンクと呼ばれる大手都市銀行に代表されるものであるが、この他に大手の生保、損保などの保険会社、証券会社なども含まれる。金融資本は国内外から集めた資金の運用を行なっており、かつてのような財閥支配とは異なり、金融資本そのものが独立した意思を持つかの如き動きをしていることを知る必要がある。昨今の経済のグローバル化によってこの傾向は増しており、国境を超えて資金運用が行われる結果、政府でさえ管理が難しい面が出てきている。

金融資本の行動規範は明確であり、損失を避けて最大利潤を追うことである。そのためには貸出先を含め、あらゆる方面での働きかけが行われる。福島第一原発の事故によって、東京電力の経営が破綻し、保有していた東京電力の株が紙くずとなるとともに、社債の償還や貸付金が不良債権化すれば、単に安定した収益先を失うばかりか、金融資本にとっても経営上の大問題となる可能性がある。全原発の停止という未曾有の状況は、東京電力だけでなく全電力会社の経営を脅かしており、これが日本経済にマイナスの影響を与えることも考えられる。

金融資本が望むことは、東京電力を破綻させないことであり、再び黒字化することである。これは東京電力の経営とも利害が一致している。そのためには電力料金の値上げや廃炉費用の償却により債務超過にならないようにすること、国からの支援を最大限に引き出すこと、いち早く原発の再稼働を果たして赤字から脱却すること、電力会社にぎりぎりの合理化を迫ることが必要となる。

かつて上海の投資グループが、北陸電力の買収を検討し最後に撤退したが、その理由は「北陸電力が原発を保有していることのリスク」であると聞く。54基の原発を保有する電力会社および日本原燃に大量の株式と債権を持つ我が国の金融資本は、その原発保有リスクを見逃して投資や貸付をした判断の誤りのツケを払わせられる危険性を回避するため、政府や電力会社にさまざまな圧力を掛けてくるはずだ。

安全審査の申請を巡るやりとりで、泉田知事が、「お金と安全とどちらが大切ですか」と尋ねたのに対して、東京電力の広瀬社長が「もちろん、安全です」と答えたが、背後に控える金融資本からすれば「もちろん、お金です」ということになる。とはいえ、金融資本も電力会社が安全を手抜きして、再び事故を起こせば、元も子も失うという認識はあるはずだ。だが、金融資本もそのバックは顔見えない世界中の投資家であり、市場というものの圧力に従わざるを得ないのも金融資本である。また、彼らはしばしば短期的な見方をすることが分かっている。東京電力をはじめとする電力会社の行動の裏には、彼らの、「会社を存続したい」という意思の他に金融資本の意思があるということを忘れてはならない。日本政府は国民の生命と財産を守るために、金融資本の無謀な動きを牽制する必要があるが、自民党など政党も金融資本とのつながりがあるため、どこまで実行出来るかは不透明だ。

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