日本エネルギー会議

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ようやくのテロ対策

原子力規制委員会が、先月末にテロ対策に向け、作業員の個人情報を調査するための制度づくりに着手したと、毎日新聞が報じた。電力各社は、作業員の調達を協力企業に依存する傾向がある。制度化によって、手続きが煩雑化して作業員の確保が困難になれば、東京電力福島第一原発の廃炉作業に影響が出る可能性があると記事は指摘している。

 「協力会社に依存する傾向がある」としているが、現実はそんな生易しいものではなく、「かなり依存している」といっても良い。どの業界でもそうであるが、日本の場合には優秀な作業員を抱える中小企業が、人材面でもしっかりと下支えをしてきた。

最近、製造業では派遣という形に下支えを依存するようになっているが、マルハニチロの農薬混入冷凍食品問題などは、まさにその下支え部分の問題が露呈したものだ。テレビでは、子会社の工場側が「本人はこのような人物」と説明していたが、それは私にとって驚きだった。製造業では、下請け任せであっても、かなり作業員が定着していることがうかがえた。原発の建設やメンテナンスの現場では、電力会社やメーカーの子会社の所長があれほどまでに特定の個人を把握していることはないからだ。

「手続きが煩雑化して作業員の確保が困難になれば」とあるのも、やや的はずれな指摘だ。いまでも手続きは十分に煩雑であり、急遽人を管理区域内の作業のために入れることは難しい。いったん、入域許可が出てしまえば、あとは機械的に本人であることが確認され、それ以外の人が入れないだけのことである。下請作業員として企業に採用されてしまえばそれまでなのだ。場合によっては電力会社社員、子会社の社員にも正式の手続きでなれる可能性がある。

問題は、作業者の身元の確認とテロリストあるいはそれに加担する人物でないかのチェックである。従来、身元は運転免許証、社会保険などでやってきた。かつてオウム事件の頃、建設現場では、作業員の中にオウム信者がまぎれこんでいるという噂があり、現場管理に頭を痛めた経験がある。

テロ対策には、警察や公安の情報との照合が必要となるが、それなしには電力会社や請負企業ではどうにもやりようがない。登録前の作業員の個人情報を警察などに流してチェックしてもらうしかない。また、原発が狙われているという情報を入手することも原発側では手に余るものだ。現在は、構内の機械的な警備の水準を高めるとともに、機動隊の配備、海上保安庁の原発前面の海上警備が行われているに過ぎない。

多層構造の請負体制を採っていることにより、数次の下請会社の労務管理の不十分なこと、極めて短期間に人が入れ替わることなど、原発の仕事のやり方そのものを変えなければ、水際の対策に過剰に期待しなくてはならず、抜本的なテロ対策は進まない。

原発の構内では、管理区域や汚染管理区域の入口はゲートがあって、身分証や服装、装備品の検査が行われる。だが、食品工場のようにつなぎ服にポケットがないとか、持ち込み品の制限ということでは、原発の現場はかなり様相が違う。持ち込む工具箱にはありとあらゆる工具が入っている。また、部品なども梱包されていることが多い。汚染管理や被ばく低減のために、機器の置かれている部屋が小部屋に区切られていることも、警備を難しくしている。爆発物や凶器を隠して置く場所にはことかかない。人間の頭脳にあたる中央制御室や神経にあたる計測制御系統を狙われると怖い。

汚染管理は厳しく行われているが、それは物品や人が汚染区域から出る際のことで、持ち込む際は比較的寛容で、炉内など物品を落とすおそれのあるところだけは、持ち込む品をノートに記録して、紛失したり、現場に置き忘れたりするのを防止している。

このあたりも実際に爆発物や凶器などを持ち込ませないようにするには、どのようにするか頭の痛いところだ。手続きや検査などが増え、従来から問題となっている現場での実労働時間がますます短くなってしまう。これが人手不足に拍車をかけたり、ひいてはコスト増につながる心配がある。

記事ではテロ対策が人材確保を困難にすることで福島第一原発の廃炉作業にも影響が出るのではと心配しているが、事は原発や再処理施設の構内の問題だけに留まらない。福島第一原発の事故では、原発の命綱は外部電源と冷却水源にあることが明らかになった。関係者なら誰でも知っているように、動いている原発は送電線の先に電気の送り先がなくなった途端に、運転を停止せざるを得ない。福島でいえば200キロを超す送電線を防衛することが必要となる。

テロ行為があったときに通信装置が破壊されて構内の通話、外部との交信が途絶すれば、現場は混乱し対応にも支障が出る。また、使用済燃料燃料プールも水位が低下したり、冷却機能が失われたりすれば大事になる。この辺りは、ハード面のテロ対策の要点になるはずだ。現場の機器やその配置、作業実態をよく知る人を集めて、具体的に現場で可能な設備の破壊方法の想定をしながら、対策基準を考えていくことが原子力規制委員会の責任だ。

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