日本エネルギー会議

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落とし穴

福島第一原発の事故は関係者にとって、とんだ落とし穴だった。地震については柏崎刈羽を襲った中越沖地震の被害から、それなりに対策を打っていたが、まさかあのような大きな津波が原発を襲ってくるとは考えもしなかった。

私は若かりし日、原発の建設現場で労働安全管理の仕事をやっていたが、事故は思いもかけない所で、まさかというような形で起きるものだという経験を何度もした。現場で墜落事故が起きると、その直後は誰もが足場や安全ネットが気になり、パトロールすると、作業者がこちらに向かって安全帯を指差して「やってますよ」とアッピールするくらいだった。当然ながら、重点目標は墜落災害の撲滅となり、朝のKY(危険予知)ミーティングでも「安全帯ヨシッ」である。

ところが皆が墜落災害防止に集中していると、その裏をかくように火災が発生するなど必ずと言っても良いくらい他の災害が起きた。人々の注意は一点に集中する傾向があり、そうなるとそれ以外が疎かになるためである。原子炉圧力容器の吊り込み作業など一大イベントでは、計画も綿密であり、実施する側は緊張しているので、事故は起きにくいと思った。原子炉建屋から一番遠い鉄筋を加工するヤードの門型クレーンや取水口周りの土木工事などでよく事故が起きた。統計をとって見ると原子炉建屋よりタービン建屋、それよりもヤードや事務所まわりに事故件数が多かった。

福島第一原発の事故の反省から、現在各原発では、地震や津波などに対する対策、あるいは緊急時に冷却水を入れるための非常電源の確保や水源確保、ベント関連の改良などハード面の対策が中心となって行われている。一つづつ過酷事故の要因を潰していくことは必要だが、次はどんなことから事故になるかは予断を許さない。ヒューマンエラーやテロ行為は人が絡むだけに、対策が容易ではなく一番心配なところだ。原発の安全では深層防護と言われているが、現実には一つの事象が次々と波及し拡大していく傾向がある。また、たまたま二つ三つの事象が同時に起き、一つの原因に対してだけ考えられていた安全対策が無力化したりする。

落語に「風が吹いて桶屋が儲かる」というのがあるが、原発のような大きな装置で事故の起きるメカニズムは、まだまだ解明が進んでいない分野だ。「自分が大自然やテロリストになって、どうやったら原発に過酷事故を起こせるか」を徹底的に考えてみるというのも、一つのヒントである。

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