日本エネルギー会議

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避難と心理

人は逃げようとする気持ちを抑えて、どれだけ室内に留まれるものなのか。
原子力規制委員会が、周辺自治体が避難計画を作成するための基礎資料として原発の過酷事故時にむやみに逃げるより、屋内にとどまった方が合理的だという試算結果を発表した。木造でもコンクリートでも建物の中に二日間避難すれば、逃げるより被ばくは少なくなると評価し、「原発から5キロ圏内の予防防護措置区域(PAZ)の住民は基本的に速やかに避難し、5~30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)の住民は屋内退避を中心にするのが合理的」だという。

自治体はこれまで防災計画策定上、大勢の住民をどのようにして速く円滑に避難させるかに悩んでいたが、この資料発表によって策定が楽になった反面、私が経験した福島第一原発事故の避難の実態に照らせば、自治体や住民は新たな問題に悩むことになる。

屋内退避の指示はどのように出すのだろうか。事故の際の自治体から住民への指示は防災無線が中心となる。これは一斉放送であり、エリアを分けては出来ないため、各戸は原発から何キロにあるのかをあらかじめ知っておく必要がある。そこには必ずボーダーラインやグレーゾーンが存在する。原発から4キロの住民が急いで支度をして避難するのを5キロの住民が見て、屋内退避で我慢出来るのか怪しい。これを徹底するのなら、道路を封鎖するなどの措置が必要となるが、そうした要員や機材が準備出来るのか、住民とのトラブルにはならないかが心配だ。福島第一原発の事故の際、道路封鎖が徹底したのは事故から数日経ってからである。

福島第一原発の事故では、自治体が指示を出す半日前から、原発関係者や防災関係者から情報をもらった住民が避難を始めている。これを見ている住民が後から屋内退避指示を聞いても従うとは思えない。よほど室内にとどまった方か被ばくが少ないことをしっかり理解させておかなければ混乱するだけだ。

通信手段がダメージを受けているとはいえ、住民は周囲からさまざまな情報を受けとり、また自らも情報を探す。さらには親戚、友人、知人に発信する。その場合、「室内退避で大丈夫」と「一刻も速く遠くに逃げた方がよい」という情報のどちらを選択するか。一般的に人はより危険だという情報を選択するものだ。室内退避している間にどんどん状況が悪くなると、今度は逃げるのに大きなリスクを背負わねばならないとも考える。

福島第一原発の事故の際も、一次避難先にいる人に対して、遠くにいる親戚や知人から、あるいは先に避難した友人から、「そんな近くに居ては危ない。もっと遠くに逃げなくてはだめだ」と忠告を受けた人が多かった。

屋内にとどまらずに、避難するとしても、自分の足で走って逃げるわけではなく、ほとんどが車での避難となる。車の乗り降りの際は表に出るが、あとは車内にいるので、窓を閉め、換気せず、エアコンもかけなければ、室内退避とそれほど被ばくが違わないと住民は考えるだろう。それよりも、食料や水の備蓄、病気の人は薬が不足したり、治療が受けられなくなったりする方が心配になる。屋内退避している間に病状がさらに悪化したら困る、子供が熱でも出したらと考えてしまう。

地震や津波など自然災害と併せて起きる原発事故では、地震や津波の第二波の心配や、連絡がとれない家族などを探しにいくことを被ばく対策より優先する人が多いと思われる。過酷事故そのものや避難指示は、さまざまなケースが想定されるとともに、どのケースの可能性が高いかについても判断がつかない。そのため、今回の「室内退避が有利」の情報がどれほど活用出来るかは不明だ。そのように決めてしまえば、準備や訓練などはやりやすくなるが、その訓練が仇になるのではないかと心配だ。

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