日本エネルギー会議

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腫れ物

「美味しんぼ」騒ぎの際に、福島県民が怒ったのは腫れ物に触られたからなのかと人に聞かれた。腫れ物というよりは古傷のようなもので、いつまでも背負っていかなければならないと考えている被ばく問題を、今さらに一般の人の興味を惹くような形で騒ぎ立てられるのは迷惑だということだ。

福島県の人々、特に避難している人々にとって、腫れ物とは賠償問題のことだ。東京電力が支払った賠償は既に5兆円を超えた。今まで、私は書き物で賠償に関してさまざまな問題を提起し、また実際に賠償の窓口と電話で年甲斐もなく怒鳴ったりしてしまったが、賠償に関しては、現在はとても我慢が出来ない状況ではない。 

それどころか、過去に大事故や公害問題によって一度に多勢の人に対して行われた賠償と比べれば、福島第一原発の事故に係わる賠償ほど早期に多くの被害者に対して、ある程度妥当な支払いが行われた例はないのではないかと思う。

賠償が相当手厚く丁寧に行なわれている一例を示せば、最近、東京電力から仏壇を家においてきた人に対して、領収書がなくとも仏壇の写真を撮ってそれを付けて申請すれば一台40万円を賠償すること、さらに新たな仏壇の供養をした場合には10万円を上乗せするとの案内が届いている。

同じ福島県民でも事故時に国から避難指示を受けた人は精神的損害に対する賠償として、2011年3月以降、避難生活に伴う生活費の増額分も含め毎月一人10万円が支払われてきた。家族が多い世帯ではかなりの金額になる。これに対して避難指示を受けなかった中通りの人々は一時金として大人一人8万円、子供一人40万円を一回もらっただけ。これも受け取れなかった会津地方や白河地方の人々の不満は、県が代わりに5万円を支給することで収めた。中通りや会津の人々は、隣に避難してきた人が毎月10万円を受け取っていることを報道で知っている。 

避難当初から住民と避難してきた人たちの間で、感情的な問題があったのは事実で、避難先の臨時の町役場への住民からの苦情の電話(働きもしないで朝からパチンコをやっているなど)や、避難者のいわきナンバーの車に傷をつけたりといったことがあった。病院や道路の混雑なども避難者が増えたからだという声が上がった。「東電宝くじ」という言葉が出来たのもこの頃だ。

避難者は健康保険税や自己負担は免除され、住民税も当面は取られず、高速道路は通行料がいらない。当然のことながら仮設住宅やみなし仮設(民間アパートの借り上げ)の家賃はタダで、NHKの受信料さえいらない。その地域の住民で、苦しい生活をしている人から見れば嫉妬心が起きるのは当然だ。

このため、避難して賠償を受け取っている人たちは、外出先では避難していることを明らかにしないように、また外食をしながら賠償の話などはしないよう注意をしながら生活をするようになった。

避難して2年が過ぎると、不動産や家財などについても賠償が開始された。持ち家だった人と貸家やアパート暮らしだった人では、同じ避難者でも賠償額に相当の差が生じる。帰還困難区域に家を所有していた4人家族の世帯は家を失ったのだから当然だとはいえ、精神的損害と合わせて、既に総額で一億円近くを手にしているはずだ。

地震や津波で家が壊された人に対しては、事故直前に家の価値が失われたとして賠償の対象とならない。その人たちこそ本当に家がなくなってしまったのにもかかわらず、国の支援制度(見舞金と無利子の融資)しかない。また、どこかに勤めていたか、自営業だったか、農業だったかによっても、収入に対する賠償内容が大きく違う。

こうなると避難している人、同じ集落だった人の間でも、賠償の話はしづらいものだ。同じ世帯でも親と子、夫婦の間でも分配や相続など、いろいろと微妙な問題が生じる。友人知人あるいは親戚同士でも互いにどのくらい賠償を受けたか、賠償金を家族でどのように分けたか、何に使ったかも探り合うようになる。誰それは賠償金のほとんどをパチンコに使ってしまった、誰それの家では、親の精神的損害の賠償金を全部息子夫婦が自分たちのものにしてしまったと噂話をするようになる。

区域解除してから一年間は月10万円の精神的損害賠償を支払うという相場が出来つつあるが、区域解除がいつになるかまったくわからない区域の住民は今後どのような賠償が行われるのかが気になる。下手なことを言って金の亡者のように思われるのも心外だが、浪江町の集団申立に対して月15万円の和解案が出たと聞けば無関心ではいられない。いまだに避難している人にとって、賠償は身内でも「腫れ物に触る」話題なのだ。

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