日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

FITはトロイの木馬だった

立場が変わると見えるものが違ってくる。現役の頃は、それこそ原発のこと、しかも我社の原発ということからすべてを見ていた。それが業界団体に移ると、より視野が広くなり、海外調査に参加すればさらに広がった。今のように何の肩書きも持たないようになると、他のエネルギー関連のニュースも、原発関連のニュースと比較をし、同等に興味を持って読むことが出来る。

最近は、「再生可能エネルギー接続保留」のニュースが気になりだした。ソーラーなど再生可能エネルギーの出力が大きくなりすぎて、電力会社がこれ以上系統につなぐと電気を安定的に送電出来なくなるので、再生可能エネルギーの接続申請に対する認定を保留すると言い始めたのだ。九州では今年の5月末までに固定価格買取制度の認定を受けたソーラーの容量は1782万kWに達して、夏の電力需要のピーク(約1600万kW)を上回る状況になった。ソーラーが全出力運転することはないが、それにしても驚くべき数字だ。九州電力の開催した説明会では、メガソーラーなどを計画していた事業者が会場に押し寄せた様子がテレビに映し出された。

電力需要が少ない時間帯に再生可能エネルギーから大量の電力が送り込まれると、火力発電など電力会社の既存電源をストップしても電気が余ってしまい、系統が混乱してしまう。こうした話は種子島のような離島での話と思っていたが、九州以外にも北海道、東北、四国などでは、供給区域全体の問題になるほど、再生可能エネルギー、特にメガソーラーの建設が昨年から今年にかけて急激に伸びている。

その規模は、最も需要が低いときの各電力会社の需要をも満たすようになった。北海道電力は最小需要の約270万kWに対して、設備認定量が約300万kW、東北電力は970万kWに対して1200万kW、四国電力は250万kWに対して250万kWとなった。もちろん、ソーラーなどが最大出力を出すのは一年の間でもごく一部の期間でしかないが…。

電力会社にとって問題なのは、これらの再生可能エネルギーがFIT(固定価格買取制度)で、電力会社が買い取ることを義務付けられていること、しかも、これが最長20年という長期間保証されていることだ。需要以上に供給は出来ないから、電力会社は自社の火力発電など電源を休止してでも、再生可能エネルギーの電気を優先的に供給に回すことになる。それでも余れば、需要力のある他の電力会社に送るか、揚水式の水力発電所に送って消費することになる。

軽負荷期に太陽光発電がフル稼働した場合の問題点 出典:東北電力

再生可能エネルギーが自家消費に回されるのであれば電力会社の負担はある程度緩和されるが、今のところ売電価格が極めて高く設定されているので、再生可能エネルギーの事業者は少しでも多く売電にまわそうとする。現在、再生可能エネルギーで圧倒的なシェアを占めているのは気象に左右されるソーラーと風力発電であり、バイオマス発電や地熱発電など安定的な再生可能エネルギーはまだほんの少しだ。FIT制度下の再生可能エネルギーを最優先して使う電源構成を取ることになっても、停電をさせないために電力会社は火力発電所などを最大需要に合わせて維持していかなければならない。

2年後に電力自由化が実施された暁には、電力会社の供給義務がなくなり、そうなれば再生可能エネルギーが出力を落とすと停電するか、その時だけ消費者が極端に高い電力を買わされることになる可能性がある。そこで期待されるのが、電力間の電力融通を可能にする送電網の充実と大型蓄電池の導入であり,小渕経産大臣も国会答弁でそのような方向を示唆している。

ソーラー、風力発電の特徴は、一度設置すると燃料費がまったく掛からないことであり、維持管理費も廃棄物処分費も比較的少なくて済むことだ。これらが需要の多くを賄っている昼間は、昼前後のピーク時以外に他の電源は出力を落とし、化石燃料の消費は減る。風力発電と揚水式水力発電が増えれば、夜間はそれでカバーされるので今まで夜間を支えていた火力発電所の化石燃料の消費量は減ることになる。買取義務のある再生可能エネルギーを優先的に供給に使えば、電力会社は火力発電所など自社の電源の稼働率をその分落とす必要がある。

ここ数年は天候や景気にかかわらず、日本全体の電力需要が毎年減り続けているが、その原因として省エネ、人口減少、工場の海外移転に加え企業や各家庭の自家発電の増加が考えられる。このまま需要減少傾向が続くならば、電力会社の所有する電源は発電コストの高いものから順に稼働されなくなっていく。関係者は電力需要見通し、再生可能エネルギーの導入ペース、化石燃料の消費量、揚水式水力や大型蓄電池の開発状況などから目が離せない。

今思えば、再生可能エネルギーに対するFIT制度の適用は、電力会社の発電シェアを徐々に奪うことになる「トロイの木馬」であった。それに気づいていれば、電力会社は自社のメガソーラー建設に全力投球したはずだ。(北陸電力は福井県三国港に風力発電所を計画するなど健闘しているが)
福島第一原発の事故以来、電力会社は過去に大きな投資をした火力、原子力の電源を維持することに全力を挙げていたため、気がついたときには買い取らねばならない電力量は、安定供給上の限度に達していたのだ。経産省も電力会社以上に慌てたに違いない。

時すでに遅し。高値で買取を約束された再生可能エネルギーによる電力は、これからも縮小する電力需要を食い続けていくだろう。政府の要請により送電網や揚水式水力発電、それに大型蓄電池が充実する分だけ再生可能エネルギーが増え、かつての炭砿や溶鉱炉のように、火力発電所や原発の火がひとつ、またひとつと消えていき、9電力会社の役割は発電から送配電や蓄電に移行するのではないかという気がする。フリーな立場から見ると、原子力を取り巻く世の中の動きはかつてなく早いのに、原子力そのものはあまりにも動きが遅い。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter