日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

疑問を持たずにはいられない

NHKスペシャル「メルトダウン」 福島第一原発事故7つの謎 と題した本がNHK取材班によって書かれ、講談社から出版された。そのなかでは、「知られざる放射能大量放出の謎」など、放送された後に、原子力の専門家たちから内容に疑義を呈されているものもあるが、第一章の「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見逃されたのか?」を読むと、文系の私でも軽水炉の設計そのものに疑問を持たずにはいられない。

「水位計の罠」という小見出しで書かれている内容によれば、
福島第一原発1号機では、事故当時、燃料がむき出しになるほど原子炉内の水が減っていたにもかかわらず、水位計の構造上の理由で水位計の中の水が高温で蒸発してしまい、正しく測れなくなった。他に水位を知る手段はなかった。水がなくなったことで逆に表示上の水位は高くなる。ICが機能していないことに気づいた中央制御室の運転員は、水位上昇はおかしいと感じて、ホワイトボードに「水位計、あてにならない」と書いている。

この時点で、重要免震棟の吉田所長以下は、水位計がデタラメであることに気づいていない。炉内に水があると思っていた。それはICが動き続けていると考えていたからだ。吉田所長は「今にして思うとこの水位計をある程度信用していたのが間違いで、大反省です」と自嘲気味に述べた。

原子炉をメルトダウンさせないためには、燃料棒を空中に露出しないように水中に没しておくことが絶対に必要なことであり、そのため緊急時は原子炉内の水位を把握しておくことが最優先となるはずで水位計は最も重要な計器だ。水を炉内に注入するにしても、どの程度入れるかは水位計がなければ判断出来ない。そのような計器が一つしかなく、それが故障した場合には、他の原理で水位を知ることが出来るようにもなっていない。測定したり表示したりする電源も不足していた。

それを知って、私は御巣鷹山中に墜落した日航機のことを思い出した。操縦士は胴体後部に亀裂が入り、垂直尾翼がない状態で飛行していたことを知らずに、なんとか機体の姿勢を立て直そうと悪戦苦闘していた。操縦席からは尾翼を見ることは出来なかった。

原発の運転操作は、中央制御室から遠隔操作で行うものが大半で、弁の開閉、モーターやポンプの起動停止、タンク内の圧力や水位は現場で計測されたものが制御系のケーブルを通じて中央制御室の制御盤に集中表示され、操作はこれを頼りに行われる。テレビカメラも一部の現場にはあるが、ほとんどがランプの赤緑とスイッチの方向、計器の表示で現場がその通りになっていると信じるしかない。このために過去に計測制御の故障や運転員の見誤りで、さまざまな問題が起きているのも事実である。スリーマイル島原発と福島第一原発の事故原因と対応においては、計器誤認と炉内注水の苦闘が共通点だ。

緊急時に最重要な原子炉の水位計が、一つしかなく、それも故障しているかどうかもわからないという設計は、運転員や対策本部の者にとって過酷すぎる。 そのような設備を設計した者、それを安全審査した者、規制基準を定める場合に水位計が一つでよいとした者。故障等に備えて多重化をせず、違う原理の測定機器の準備を考えなかった者は、「原子力安全に対して慎重さに欠け、現場実務を的確に想像することが出来ないので、原発の設計、製造や審査に関わるべきではない」と断定するのは厳しすぎるだろうか。

反論があればむしろ幸いだ。水位計の問題が技術者の間で盛んに議論され、改善の方策が見つかり、実機に反映されようとしているとの情報が寄せられることを期待する。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter