日本エネルギー会議

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帰還意思の喪失

以前、福島第一原発の事故の賠償で、移住先に新たに家を取得する際には、追加の賠償が出るようになったことを書いた。避難している住民のために大変手厚い賠償が行われると評価できる一方で、避難区域の復興を考えた場合に、この措置は大きな障害となる恐れがある。

なぜなら、この追加賠償は元の町には戻らずに、新たな地で家を買って住んだ方が経済的に有利となるからで、まるで帰還しないで他の場所に移住しなさいと言っているようなもの。帰還困難区域を抱える富岡町、大熊町、双葉町、浪江町などでは、現在盛んに復興計画を作成中あるいは見直し中である。住民にアンケートを取ると、「帰還しないと決めている」人の比率が既に半数近くになり、復興計画が絵にかいた餅になりかけている。それなのに、国や東京電力は追加賠償までして住民が家を別の場所に得やすくしているのだ。周囲の人たちの行動が、帰還しようかどうしようか迷っている人にとって大きな判断材料になる。

今までも、区域が指定解除されれば、精神的損害に対する賠償が打ち切られるため、解除に反対するあるいは解除されても帰還しようとしない住民がいた。ほとんどの場合、他人より早く帰還を果たしても、不便さに耐えるだけで何ら経済的メリットはなかった。帰還するなと言うつもりはないのだろうが、国や東京電力のやっていることは、結果的に住民の帰還意思を失わせている。

それ以外にも、立ち入りを制限されている区域に住民が一時帰宅したときに見る町の荒廃した有様はボディブローのように効いてくる。地震で壊れ、風雨に三年以上も晒され崩れかけた家屋。田畑といわず、空き地といわず雑草が伸び放題で、道路にも両側から倒れ掛かるほど。電柱や建物に取り付いた蔓や蔦。大手を振って歩き回る野生動物や繁殖した昆虫、相変わらず放置されたまま錆び付いた自動車、枯葉やゴミで詰まった側溝や用水路。壊れたままのガードレール。田圃に次々に積み上げられる除染で出た土の入った黒いバッグ。こうしたものを目にすると住民たちは一様に帰還意欲を失ってしまう。除染や廃炉のために集まった多くの見知らぬ作業員や企業。まるで知らない町にいるようだ。今後数年間は除染で出た土壌などを中間貯蔵施設に運ぶダンプカーの列が予想されている。

除染が計画通りに進まず、インフラなどの復興計画が遅れているが、これを見聞きした住民は待ちきれずに帰還しないと決断する傾向が出ている。先般発表になった東京電力の廃炉工程の遅れも、住民の帰還判断に大いに影響するものと思われる。町村や県などは、住民の帰還意思を失わせるようなことをしている国や東京電力にもっと抗議すべきだ。そうしなければ、福島第一原発周辺の町村は寂しいところになってしまう。

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