日本エネルギー会議

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テスラモーターズの蓄電池販売

先月28日、経済産業省の有識者委員会は2030年の日本の電源構成について原案をまとめた。東京理科大教授の橘川武郎委員は「原発への依存度を極力引き下げ、再生エネは可能な限り導入するとのエネルギー基本計画に反する。公約違反だ」と再考を求めたが、ほかの多くの委員が経産省案に理解を示し委員長を務める坂根正弘・小松製作所相談役は議論を打ち切った。有識者委員会では再生可能エネルギーの中でも太陽光発電や風力発電は出力が不安定でバックアップ電源が必要なこと、したがって蓄電池などで電力の貯蔵をしなければならず、それがさらに発電コストも引き上げるという前提での議論だった。

その二日後の30日、アメリカの電気自動車メーカー、テスラモーターズは、電気自動車用の電池を転用して価格を安く抑えた家庭用のリチウムイオン蓄電池の発売を発表した。製品名は「Powerwall」、重さ100キログラム、サイズは縦130センチ×横86センチ(横)×厚さ18センチと薄型で、10年保証がついている。

このニュースの最大のポイントは、この蓄電池の販売価格が従来日本のメーカーの販売していた蓄電池の三分の一から二分の一だったことだ。例えば、東芝の製品は容量6.6キロワット時で137万円だが、これに対するテスラモーターズの7キロワット時の製品は36万円、10キロワット時モデルでは42万円だ。現在、国が家庭用蓄電池購入に補助している50万円の範囲でこの蓄電池が買えてしまうという驚きの低価格だ。

今まで、安い深夜電力を蓄電池に貯めて昼間使うことにより、電気代が安くなるという計算をしても、蓄電池の価格と耐用年数でどうしても成り立たなかった。だが、こんなに安い蓄電池が市場に出回るとすれば、もう一度計算をしなおさなくてはならない。今まで世界をリードしてきた日本の蓄電池メーカーも苦戦を強いられるに違いないが、この話にはもうひとつの面白い事実がある。それはテスラモーターズが、この蓄電池を生産するための世界最大の蓄電池工場「ギガファクトリー」の建設をアメリカのネバダ州で昨年の6月から開始しているのだが、その連携先はなんとパナソニックだというのだ。

「ギガファクトリー」はもともとテスラモーターズの生産する電気自動車用の蓄電池を大量に安く生産する目的だったが、規模の利益を活かして家庭用や業務用の蓄電池も生産することで蓄電池の価格をさらに下げることを狙ったものだ。そうすることによって電気自動車の価格も下げることが出来る。安い蓄電池は今年の夏にはアメリカで、来年には日本でも発売予定だ。経産省の統計によれば、日本の平均的家庭の一日の電力使用量はおよそ11.5キロワット時なので、ちょうど1日分の電気が貯められる。導入が進めば、電力需要のピークシフトと夜間の電力需要のボトムアップが可能になり、電源を効率的に使うために二重に効果がある。ベースロード電源の稼働率が上がるとともに、余分な電源を持つ必要が少なくなるということだ。

ここ数年伸び悩んでいる日本の電力需要のなかでも、需要の三分の一を占める家庭用やオフィス用の電力需要は伸び続けている。安い蓄電池の登場で、この電力需要と2010年以降下がり続けている電力ピークをさらに下げられる可能性が出てきた。テスラモーターズは家庭用だけではなく、今後大規模な電源用の蓄電装置の市場にも乗り出すとしている。福島県をはじめとする再生可能エネルギーによる電力の自給自足をめざす自治体にとっても朗報だ。

テスラモーターズのイーロン・マスクCEOは、「私は原発賛成派だ。基本的にクリーンな電源といってよい。ただし、自然災害から守られているという条件付きだ。残念だがカリフォルニア州や日本のような地震多発地帯には向かない」と発言したと報じられている。(日本経済新聞:2015,5.2)
実は、4月30日のテスラモーターズの蓄電池販売開始の発表は、訪米中の安倍首相がシリコンバレーにある同社の本社の訪問を終えた直後に行われた。電気自動車に試乗した感想として「変化のスピードについていくことの重要さを実感した」と語った安倍首相だが、ステラモーターズの安い蓄電池販売開始の発表は、たまたま時期を同じくした日本政府主導の再生可能エネルギーに悲観的な電源構成の原案決定に対する痛烈な皮肉となったのではないか。

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