日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(4)

システムが巨大であることから生ずる組織の問題

電力会社の組織において、運用中の原発のリスク評価はどのように行われるのだろうか。また、新たなリスクが浮上したときどのように対応が行われる可能性があるのだろうか。

近代的な生産設備は主に機械設備、電気設備、制御設備などで構成されている。原発も20世紀に興った原子力工学を中心とし、電気工学、機械工学、制御工学を含む総合的な科学技術システムである。建屋や水路を必要とすることから、技術分野として土木建築を、原子力特有の放射線を扱うための放射線管理に関する技術も含まれる。原発の建設や運転に携わるメーカーや工事会社はあらゆる分野にまたがっていると言ってもよいほど多様なものだ。

原発の運営には、それぞれに専門分野の知識と技術を持つ人材が必要であることから、組織は分野的に幅広いものとなる。一般的に原発1機の運営に配置されている電力会社の社員数は300人程度。複数号機の場合は300人がベースとなって何割か増しになるが、福島第一原発のように6機もある場合は、通常運転中でも一箇所で管理することが困難を伴うために組織を2分割していた。東京電力の福島原発や柏崎刈羽原発のようにひとつのサイトに数多く配置すれば、事故時に互いに影響しあうことと、管理スパンに限界があることで、それだけ対応困難になるリスクが高まると考えるべきだ。このことから原子力規制においても同一サイトに最大何機まで設置を認めるか、あるいは機数によって事故対応体制についてより充実したものを要求すべきである。

実際の組織も原発が異なる技術分野が集まっていることがそのまま組織上にも反映されており、技術課(通常、総括班と燃料化学班に分けられる)、発電課(通常、日勤班と当直に分けられる)、機械保修課(通常、原子炉班とタービン班に分けられる)、電気保修課(通常、強電班と弱電班に分けられる)、土木建築課(保修課の一部の場合もある)、放射線管理課、事務課などが存在する。発電所員はそれぞれ「運転屋」「放管屋」「事務屋」などの屋号で呼ばれることが多く、現場間、建設部隊と運転部隊間、現場と本社間、電力会社と子会社(出向)間の異動はあるが、この屋号は原子力業界から離れるまで続く。運転屋や放管屋などは公的資格が伴うのでさらに屋号との関係が濃密だ。各個人は屋号内の閉じられた世界で過ごし、他セクションの状況は所内会議の報告の範囲で知りうる。定期検査中は運転と保修の連系が必要であり、特別に情報共有と調整のために、関係者による毎朝ミーティングが行われる。

電力会社の本社では原発を統括管理する原子力部門が存在する。建設計画がある場合は建設部門と運営管理部門に分かれている。廃炉が行われている場合は廃炉部門も存在する。これらの部門内には通常、現場の各課に対応する課が置かれている。社内の技術系には原子力部門と同格の火力発電部門、水力発電部門、送配電部門がある。事務系には営業部門、総務、人事労務、経理、資材、広報などの部門がある。別に研究所や研修所もある。他の部門からは原子力部門が「別の会社」に見えるくらいに人事面や予算面で優遇されている。その一方で、原子力部門の出来事は絶えずメディアに登場する。

日本では電力会社の社員は大学、高専、高校の新卒者を採用し社員教育をしているが、中央制御室で運転操作をする運転員を除いては現場での実務は行わず主に管理業務に従事している。知識や技術は研究者やメーカー技術者ほどには深くなく、資料や話を理解し原発の所有者としての判断をすることが出来る程度にとどまっている。技術技能に関する専門性を深めるより、幅広く知識を持つことが必要で、原発の運営に関する法律やさまざまな社内規定を熟知して問題なく運用することが求められる。

原発のリスクを総合的に見ることができるのは、法的にも原子炉設置者としての責任のある電力会社の現場および本社原子力部門である。だが、前述のように組織が専門分野毎に細分化されており、どの部門もどの課も総合的にリスクを捉えるのは難しい。あえて言えば現場においては技術課の総括班が、本社においては原子力部門を統括する課や原子炉を担当する課がプラント全体の安全を考えているはずだが、発電所の技術課は所内各課を調整した結果をもとに本店、官庁、自治体と対応することが主な業務となっていて、現場を担当していないが多忙である。その業務にあたる人材は技術力より折衝能力、調整能力を優先して選抜する傾向が強い。これは本社の原子力部門の筆頭課も同じである。原子炉を担当している課は原子炉を中心にその健全性確認や燃料の燃焼管理をすることが主な業務であり、建物や機器の耐震性は土木建築課や機械保修課が分担している。
各課の業務が細分化されており、どの課も当面の課題に追われ長期的な視点に欠けがちだ。機器の経年劣化問題には取り組んでいるものの、環境の変化や新たな知見にどのように対処してリスクを下げていくかについて十分な要員と時間が経営幹部より与えられているとは言えない。また、全体リスクに特化した組織もない。このようにプラント全体的なリスクの再評価が、規制当局からの指示や外部からの指摘で受動的にしか行われない組織となっていることが問題である。
(つづく) 

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