日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(6)

巨大組織の置かれた状況がリスク管理にどのように影響するか

巨大な科学技術システムとそれを運営する巨大組織は先進国を中心に世界中で存在する。だが各国はそれぞれ固有の文化を持ち、政治体制、教育制度、雇用制度などもさまざま。原発を例に取れば、その組織のありようは国によってかなり異なる。資本主義国であるアメリカのスリーマイル島原発はGPUニュークリア社という民間資本により所有され、メトロポリタン・エジソン社という市場原理のもとにある電力会社によって運営されていた。これに対してチェルノブイリ原発は、ソ連という共産主義国家で強大な権力のもとにノルマに追い立てられる国営企業がこれを運営していた。日本の場合、資本主義ではあるが、原発は地域独占を許され総括原価で利益を確実に得られる電力会社によって運営されている。東京電力など日本の電力会社が置かれていた状況が、福島第一原発の事故の際に指摘された問題点にどのようにつながったかを明らかにする必要がある。

アメリカの原発を所有し運営する大小の企業が原発をやる目的は利益追求であることは、当事者たちにとって当たり前だ。国家的にはエネルギー源の多様化、地球温暖化対策などもあろうが、企業としては利益を上げて株主に報いることが優先課題である。メーカーのGEでさえ幹部が、「原発の経済性は失われた」とあっさり認める国柄だ。利益が上がらないとみるや自主的に廃炉、建設中止という方向に向かう。アメリカの露骨な金儲け主義は原発の運営に最小の費用で最大の効果をあげなくてはならないという緊張感を与え続ける。このためやらねばならない対策について徹底的な検討が行われ選別される。安易に予算をつけることはないが、一方、確たる理由もなしに対策をやらなかったり、先送りしてしまうこともない。国民や市場からも見せかけではなく、実質的な安全対策が求められ、これに企業も応えようとする。津波対策、過酷事故対策、テロ対策を規制当局から求められた場合、アメリカの電力会社はどのような対応をしただろうか。経済合理性のある対策を考えて規制当局と交渉するとともに、もし経済的に合わなければ政府や他の原発に遠慮することなく廃炉を選択するかもしれない。このように経済原則に徹していた場合、他の要素が入り込む余地が少ない。

日本の電力会社は株式会社であり、建前としては利益追求を目的としているが、国策民営の枠組みの中で、準国産エネルギーの確保と地球温暖化対策のために国の政策である原子力開発を実行している。反面、多くの恩恵を得ている。その恩恵は電力会社自身のためと、電力会社に関連する多くの組織や個人を利している。株主のためにも安定した配当が与えられてきたが、それも電力会社の存立基盤の強化に資するものだった。電力会社はそれぞれがその地方で経済界のトップであり、従来景気対策として電力会社の設備投資が使われてきた。その経済力を背景にして政治力もある。その力がその組織に影響力があることが安全確保に有利に働くとは限らない。経済力政治力があるために、自らの存立基盤を守ることを最優先するなど、市場原理に基づく合理性、経済性に撤しない場合がある。それはもともと独占を許し、国による支援によって資本主義の本来の企業のあり方を曲げたために起きた宿命である。

次回以降、日本の電力会社の置かれた特殊な状況がいかなるものなのか、それが組織のやらねばならぬリスク管理においてどのように問題行動や誤った判断を引き起こすのかを詳しく見ることにしたい。
(つづく)

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