日本エネルギー会議

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多重化すべきもの

福島第一原発の事故では、外部内部ともすべての電源を失ったために非常用の冷却設備が使えず、原子炉がメルトダウンした。もし、第一原発が十分な数の電源車が準備されており、内部の電源系統も健全であったならば、第二原発のように原子炉を冷却出来てメルトダウンを回避できた可能性が大きい。そのため、全国の原発では、今までにディーゼルによる電源車を複数配備するなどの対策が採られてきた。また、電源はなくとも消防ポンプなどで強制的に炉心に水を送り込めさえすればなんとか炉心を冷却出来ることが出来ることが、福島第一原発の事故で証明された。

しかし、対策は移動電源と消防ポンプだけでよいのだろうか。事故対応のスタートは原子炉や重要機器の状態を把握することから始まる。現場には近づけないため、これらの確認はすべて計測装置と通信ケーブルと制御盤にある計器によって行われる。機器の運転停止も制御系によって自動で行われ、人が現場で直接ハンドルを回すことはめったにない。人体で言えば電源は血管であり、計測制御系統は神経にあたる。

電源だけではなく、通信手段や神経にあたる計測制御系統についても地震による切断や爆発、火災などによる被害を想定する必要があるのではないか。かつて建屋内部で足場パイプを運搬する際に、計装ラックにパイプを当ててしまっただけで誤信号になって機器が誤作動した例があった。また、制御には電気信号だけでなく、圧縮空気が使われる場合がある。コンプレッサーによって作られた圧縮空気はタンクに貯められるが、コンプレッサーが止まればこれも限りがある。圧縮空気を送るための細い配管は建屋内を引き回されている。一箇所の配管やバルブが壊れてもそこから空気が漏れて使い物にならなくなる。これらは多重化されているのか。同じ原理の装置や機器を多重化しても、同時に使えなくなる可能性もあり、違う原理のものを準備しておくことが望ましいがそれは可能か。

さらに消防車があっても水源を多重化しておく必要があるが、そのあたりはもちろん慎重な検討をして手当されていると信じたい。運転に関連するコンピュータシステムも多重化検討の対象となりうる。中央制御室およびその周辺には中央制御盤、コンピュータ、電源盤など原発の頭脳と中枢神経が集中しているが、万一これらがテロなどで破壊されれば、原発は制御不能となり、原発の冷却は福島第一原発の事故のように、いきなり消防車のポンプに依存しなくてはならなくなる。外部から停止冷却操作出来るようにしてあっても、それはどれほど有効なのか。

さらに多重化の必要なことに要員がある。福島第一原発の事故の際に吉田所長以下原発のスタッフがろくに睡眠も取らずに何週間も対応しなくてはならなかった。それだけではない。本社のスタッフ、メーカーの技術者たちも工事会社の作業員も全員が疲れきった身体と朦朧とした意識のもとに激務に耐えなくてはならなかった。それでは見落としも作業ミスも増えてしまう。今やるべきことは事故対応能力のあるスタッフを交代制が出来るように複数チーム育成しておくことだ。先日公表された原子力規制委員会による原発の訓練結果を見ると評価項目として訓練への参加状況があった。そのことは一人でも多くの関係者が訓練に参加している必要性を示しているのだが、本来は交代制を取れるだけの人数を訓練してあるかを問題にすべきだ。

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