日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(9)

共同組織の拡大とその役割

電力会社が新たに原子力発電を電源に加え組織がさらに拡大するなかで、各社共通のニーズを事業目的とする数多くの企業、機関、団体が作られ、現在もその多くが存在している。それらは事業目的により大きく分けて次のように分類される。

1.原子力発電を行う企業体
電力会社は国に原発推進を求める一方、電力事業への過剰な介入をさせないようにするため、原子力開発の創成期に商業用の原発建設主体として各社の出資で日本原子力発電を設立した。これにより、国策民営のスタイルが確定し、通産省、文部省など各官庁の原子力に関する権限の縦割りが維持された。同社には各社から技術者が出向し、各社の原発建設開始の準備としての幹部技術者の育成の役割を果たした。同社はガス炉に続き軽水炉を建設し役割を終えたが、解散や分割はせずにプロパー社員を中心に存続し、近年は各社に先駆けて廃炉を手がけている。高速増殖炉「もんじゅ」の建設、運転などへの電力会社の応援の窓口にもなったり、ベトナムの原発のフィージビリティスタディを行ったりして、電力会社の役に立つ存在であり続けようとしている。同社は創立以来、今日に至るまで50年以上、株主(東京電力が発行株式の約三分の一を所有するなど、株式のほとんどを電力会社が株を保有し、他は原子炉メーカー、金融機関などが保有。株は公開はされていない)に対して配当を行っていない。それどころか、福島第一原発の事故以降、全く発電しなくても供給契約を結んでいる電力各社から多額の基本料金を貰って黒字であることがメディアで取り上げられている。

2.原子力発電のフロントエンド・バックエンドを行う企業体
フロントエンド・バックエンド領域についても、原発と同様に国の進出を防ぐため、電力会社が共同出資して日本原燃(株)、原燃輸送(株)、(財)原子力環境整備促進・資金管理センター(原環センター; RWMC)、原子力発電環境整備機構(NUMO)、リサイクル燃料貯蔵(株)を設立した。電力会社一社ではこの領域での事業を行うことは立地の上でも、経済性の上でも技術力の上でも困難である。これを支える膨大な運営費用も使用済燃料の処理費として前払いされ、総括原価方式により電力料金に含まれて最終消費者の負担となっている。また、運営資金を金融機関から借りる際にも、裏保証を電力会社が行っている。

3.原子力関連の調査、研究開発、教育訓練、原子力発電の推進のための広報活動を行う機関、団体
電力会社は原子力に関連する各社のニーズが共通する研究開発、海外調査、運転員の教育訓練、広報事業をそれぞれ専門の組織で効率的に行えるようにした。電力会社は(財)電力中央研究所(CRIEPI)、海外電力調査会(JEPIC)、(株)BWR運転訓練センター(BTC) 、 (株)原子力発電訓練センター(NTC)、 (社)原子力安全推進協会(JANSI)、日本原子力文化振興財団(JAERO)などを次々と設立した。それらが行う事業の受注先はほとんどが電力会社となっている。

電力会社の息のかかった専門家集団を作ることで、そこに学者や研究者を取り込み、外見的に客観性を持たせたようにして、原発推進を前提とした検討結果や報告をつくらせて活用した。同時に海外の原子力機関、団体などのカウンターパートの役割をさせた。関係する政治家、国や自治体の行政官、学者などへの情報提供、海外視察の際の支援もこうした組織の海外駐在員の役割であった。

運転訓練センターでは、原子炉メーカーの協力のもと、シミュレータのように巨額投資を一箇所で済ませるとともに、教官の確保など人材面でもメリットを追求した。それにより統一的な訓練や他社との実力比較も可能であった。ただし、各社の基数が増加するに伴い、さらに各原発固有の特性に合わせた訓練、遠隔地に派遣する費用の削減などにより、各社がシミュレータを建設し運用するようになり併用型となった。

4.原子力関連の政策推進を行う団体
電力会社は国策民営による原子力開発を進めるために、国のエネルギー政策の一環として原発に対して優遇策を取るように政府や政党に働きかけを行った。そのために電力会社は既存の電気事業連合会に原子力部を設けるとともに、日本原子力産業会議(JAIF)の主要なスポンサーとなっている。何といっても最強の共同組織は電気事業連合会であり、活動に使う資金は潤沢。電力会社と違い直接株主や消費者に繋がっていないため、事業内容や収支を公開せずに済み、電力会社が自分たちではやれないロビー活動などを実行した。狙いは電力会社の原発推進を国の政策として強力に支援することであり、政府、政党、自治体に対してあらゆるチャンネル、人脈を駆使。原発政策反対派を孤立化させた。また、自ら批判的なメディアを含め、主要なメディアを原発容認に転換させるべく巨額の広告費で支配をするほか、各メディアのトップへの働きかけを強力に行った。

所管官庁、監督官庁に対しても行政側の打ち出す方針や計画に対し電力業界の立場で意見を表明し要望を通そうとした。それに先立って、電気事業連合会の原子力対策会議で業界内の意見調整、統一が行われ、業界内の意見を取りまとめが行われた。これにより対外的に一枚岩となるとともに、内部での異論を封じ、逆らう動きやぬけがけする動きを制した。また、この場を利用して共通組織や統一行動に係る各社の費用分担や派遣要員、獲得ポストの調整決定も行われた。

電力会社や子会社の労働組合が作った電力労連(後の電力総連)も4.に入る。労働組合の幹部は電力会社の経営陣と同じ視点で労働組合が推す政党を通じて原発推進政策を会社とともに推し進めた。

電気事業連合会に派遣された電力会社の社員は経営の一端を担っているとの意識で、政府や政党、自治体などの動きや他電力がこれにどのように対応しようとしているかなどの情報を出身母体に送る重要な役割を果たした。電気事業連合会への出向者は各社よりすぐりの人材であり、東京支社勤務と同様に、経営トップへの登竜門となっていた。

日本原子力産業会議(現在の日本原子力産業協会)はその生い立ちからして電気事業連合会とはいささか異なる性格の団体であった。基本的に国民の視点での原子力推進と監視を標榜していたため、電力会社からみると自分たちが出す金を使いながら、必ずしも電力会社の意思どうりの動きをしないために、会議の活動内容やプロパー職員の姿勢を批判的に見る向きもあり、会長が「これからは水力発電の時代」などと発言すると眉をひそめる電力会社経営者もいた。

福島第一原発の事故の少し前に、日本原子力産業会議は日本原子力産業協会となり、東京電力から実質時な経営者と幹部が送り込まれ、発足当時から采配を揮っていた副会長は去り、従来、学会から迎えていた会長には元経団連会長が就任した。再出発した後は、各地の支部的な組織や外国の団体、機関との関係を引き継ぎつつも、電気事業連合会と同様にほぼ完全な業界団体に変身して電力会社の代弁者となった。

電力会社が共同で作った原子力に関連する組織はそれぞれ定款や設立趣旨に定めてある目的を果たすことで電力会社の原発推進を支えるとともに、役所の外郭団体のように、電力会社の役員や職員の天下り先としての役割を持つようになり、後には関係する国や自治体の行政官、金融機関役員、学者たちの天下り先ともなった。彼らの後輩にも同じように退職後の期待を抱かせたことは間違いない。天下った者の役割は現役からの情報聞き出しと電力会社の意向に沿った影響行使である。電力会社は共同組織を利用して、国も含めた関係者の取り込みを図る環境を整えていった。

また、電力会社社員の中にいる良い意味でも悪い意味でも異色の人材を異動の折に共同組織に出向、転籍させた。そうすることで本人が活躍の場を得ることや原発反対派に取り込まれないように体制の中に囲い込む効果も期待できた。その結果、電力会社内は確実に「金太郎飴」化し「日本有数の低退職率」を誇るようになっていったのである。
 
これらの連合組織の存在が原発を推進するうえで、どのような影響を与え、電力会社の首脳陣の判断、特にトップ企業である東京電力の場合にどのように影響し福島第一原発の事故に繋がったと見るのか。それについては次回にまわしたい。 
(つづく)

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