日本エネルギー会議

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松永安左衛門とアメリカの電力会社

省みるに、電力会社が原発を始めたことによって松永安左衛門翁が目指した民営による電力事業は、その魂を抜かれてしまったようだ。その頃から電力会社は電気事業連合会において護送船団方式による談合をするようになり、各社の独自性は急速に失われていった。天下り官僚の受け入れ、巧みな資金のバラまき、その大きな政治力、経済的影響力を持って官僚や立地地域の首長を意のままに操るなど、民間企業としての健全な事業運営から離れてしまい、同時に緊張感もなくなった。もし、松永安左衛門翁が今の電力会社や原発の状況を見たら、何というだろうか。私の見立てでは、アメリカの電力会社や原発の方がビジネスライクで緊張感も持っており、翁の目指したものに近い。(エッセイ667 経世済民の男 2015.9.24より)

アメリカの原発を所有する電力会社に見られる特徴は一言で言えば、「競争と協調」だ。資本主義総本山のアメリカでは日本と違って総括原価方式はなく、原発といえども他の電源との厳しいコスト競争に晒されている。日本には九つの電力会社しかないが、アメリカには桁違いの3000社以上が広大な国土に点在している。これら電力会社は所有形態により私営、連邦営、地方公営、協同組合営事業者がある。原発を所有する電力会社の場合でも共同所有があり、中には所有しているだけで運転は他社に委託している例もある。原発に関して言えば、大手による合併、買収によって徐々に統合に向かっている。

アメリカの場合は中小の電力会社も原発を所有し原発は完全に投資の対象、金儲けの対象だ。各社は自国のエネルギー安全保障や温暖化対策として所有している意識は薄い。コスト競争で他の電源に勝てなければさっさとやめる覚悟があるなど市場原理が隅々まで行き届いている。アメリカの原発はすでに運転年数が多く、償却をほぼ終えた原発の発電コストは十分な競争力を持っている。運転期間の延長をするにしても、追加投資を抑制するとともになるべく短期間で改造工事をしようとしている。  

NRCに運転期間延長の申請をする原発がある一方、経済性低下を理由に出力増強計画をキャンセルしたり閉鎖を発表したりする原発もある。すでに停止した原発としてはクリスタル・リバー3号機(デューク・エナジー社)、キウォーニ1号機(ドミニオン社)、サンオノフレ2、3号機(SCE社)、停止決定した原発としてバーモント・ヤンキー(エンタジー社)、オイスタークリーク(エクセロン社)がある。廃炉するにしても日本のようにグリーンフィールドは目指さず工事範囲は最小限に留める計画だ。

新規建設はスリーマイル島事故以来、反対運動と電力需要の鈍化で停滞してきた。その後、電力需要の増大見通しを受けて、ブッシュ政権が原子力推進を決め、2005年の「包括エネルギー法」に新規建設に対する財政支援策を盛り込んだことで、電力会社の建設計画が相次いだ。しかし、シェールガスの生産増大で天然ガス価格が低下し卸電力価格が低下していること、再び経済の停滞で電力需要の鈍化が予想されたことから、建設計画を取りやめたり、先送りしたりする電力会社が増えている。運転してもコスト的に競争力がないと判った場合、即座に建設計画を撤回する柔軟性がアメリカの電力会社にはある。

地元に対する電源三法交付金もないが、それでもアメリカの産業界からは原発は政府への依存度の高い産業だと思われている。原発を運営している会社のトップにも現場にも資本市場からの厳しい風が吹いている。これと比べると日本の場合、原発は明らかに国の保護産業だ。

今年の夏には、GE最高経営責任者(CEO)ジェフ・イメルト氏の原子力発電に対する発言が話題になった。東京電力福島第一原発の事故をきっかけに原発のコスト上昇が見込まれる一方、多くの国がシェールガスや風力に発電用エネルギー源をシフトすると予見。原発は「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」とフィナンシャル・タイムズのインタビューで語ったのだ。発言にあたってはそれなりの根拠を示しているが、たとえそうであっても日本の原子

炉メーカーのトップの場合、国や客先である電力会社に遠慮してそのような発言は慎むだろう。
2000年の夏、私はアメリカの原発運営状況について調査するため日本原子力産業会議の調査団の一員としてアメリカ各地を巡り、原発の現場、運営する電力会社、それにアメリカの原子力産業会議にあたるNEIを訪問した。

その頃、アメリカの原子力業界はNEIのリーダーシップによってスリーマイル島事故後の厳しい規制によって消えかけた原発事業を立て直したことで意気軒昂であった。理事長は松永安左衛門の如く自由闊達で快刀乱麻。「金儲け」というアメリカ人であれば誰もが共有する価値観によって、数ある電力会社やメーカーの意思統一をはかった。激しいコスト競争の反面、小さな会社同士で原発の定期検査のアライアンスをしたり、大手電力会社は原発運営に関するノウハウを弱小の電力会社にも気前よく教えたりして、全米の原発の稼働率を90パーセント台に引き上げた。現場ではアメとムチを使って徹底した効率化がなんのてらいもなく進められていた。対する規制当局のNRCも松永安左衛門に対する池田勇人のように、効率を重んじる合理的で現実的な考え方に方向転換。規制当局と事業者のやりとりも傍聴可能にして情報をすべて公開した。

調査団は彼らの自信たっぷりの説明を黙って聞くしかなかった。調査団の帰国後、報告を受けた日本国内の業界の反応は「アメリカだから出来た」だった。このことについて書けばきりがないので、最後に現場を訪問した時のエピソードをひとつ。

当時アメリカでは、従業者の一人あたりの年間被ばく線量、放射性廃棄物の発生量など、原発の運営に関して全国共通の指標がいくつか出されていた。それらの評価をわかりやすくするため緑から赤までのカラーで何段階かに分けて表示する工夫がされていた。例えば成績優秀であればその項目は緑で表示されるといった具合だ。全米の原発の平均値が好調な運転状況を反映して中央よりやや緑寄りとのことだった。

デューク・エナージー社の所有する原発を訪問した際にも、現場の入口にあるボードにその表が掲示されていた。驚いたことにその表は黄色が多く、赤もいくつかある。この現場はそんなに成績が悪いのかと質問すると、案内人は「いやいや、この表示は意図的に基準を10倍厳しくして計算したものを掲示しているのです。まともにやるとみんな緑になってしまいますから」と笑って答えた。私は日本の電力会社が原発の運転成績などを互いに比較されるのを嫌がっていることを歯がゆく思っていたので、アメリカの原発の関係者の心意気のようなものを感じたことを今でも覚えている。

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