日本エネルギー会議

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不正の温床(5)

(不正を誘発する特殊な現場の状況)
原発では建屋や設備そのものが巨大かつ複雑なものとなっている。原発の建設現場や定期検査工事中の現場では通常、1000人以上の作業者が働いている。建屋の屋根が完成し、機械設備の据付が盛んになる建設のピークでは3000人以上にもなる日がある。既に外回りの工事はなくなっているが、建屋の中に入ると通路を行き交う人やエレベータは混雑しているが、各階に分散しているため、建屋内部の現場を回ってみると意外に作業者や作業グループに出会うことは少ない。終業時刻になると出入り口からどっと作業者たちが外に出てくるので、こんなに大勢の人がいたのかと驚くものだ。

現場では作業用の足場が作られて、通路や各部屋の天井は足場板で、また壁は足場の側面に取り付けられたシートで覆われ、壁や天井が直接見えなくなっている。通路の仮設照明は天井の足場の下に吊るされている。配管や電線ケーブルを通すラックは天井近くに配置されているので、その施工のために吊り足場が必要なのだ。また、シートは物の落下や溶接の火花を防ぐためにも隙間なく張られている。足場の上は照明が少なく、作業用のランプを点けて作業が行われていることが多い。

オペレーティングフロアと呼ばれている原子炉建屋の最上階とタービンの最上階は広い空間となっているが、それ以外はコンクリート壁で細かく仕切られている。さらに放射線防護と汚染拡大防止のために各部屋の入口は鍵の手になっていて、廊下から各部屋の内部が直接見える構造にはなっていない。いわば密室のような所で各作業グループが個別に作業をしているのだ。見学者が行う現場視察程度では作業者が作業をしている状況を直接見る機会は少ない。さらに言うのなら、中央制御室も一種の密室であり、運転員以外は勝手に立ち入ることは出来なくなっている。

このような状況での安全パトロールや品質管理のパトロールは大変である。私も若い時に、垂直のハシゴで天井の足場に登って作業の状況を確認しなければならず、ただでさえ広い現場を巡視するのに多くの時間と体力を要した経験がある。装置産業においてはしばしばこのような構造の建屋が存在するが、特に原発の内部は放射線防護、放射能漏洩防止のため最も複雑で細かく仕切られた構造になっている。

定期検査工事では、原子炉まわりや放射性廃棄物処理施設など汚染のある区域はバリアで区切られて人や物の出入りが管理されている。さらにその区域の中でも汚染レベルの高い区域はバリアで区切られ出入りが管理されている。区域に立ち入ることが許可されているのは、運転員の他は当該工事の関係者に限定される。立ち入るには許可を取るだけでなく、バリアの直前で身体への汚染を防ぐための防護服と放射能を吸い込むことによる内部被ばくを防ぐためのマスクを装着しなくてはならない。これが視界を著しく制限する。区域を退出するときは防護服を脱ぎ、マスクを外す必要がある。そうした区域での作業は、原発内にいる大勢の人たちの知るよしもないところで、他人の目に触れない状況で行われている。IT産業やバイオの施設では、区域管理が行われる場合もあるが、運転開始後の原発ほど厳重な区域管理が行われるケースは少ない。

また、法定の被ばく限度を守るとともに被ばく線量を少なくするためには立ち入り時間は制限されている。作業は速やかにかつ確実に行われなくてはならず、念には念を入れるというやり方は出来ない。監督や検査や巡視も決められたルールを守りながら行われるため時間がかかり効率はかなり悪い。

一日の作業は急ぎでなければ通常夕方には終了する。夜間はそれこそ僅かな人数だけが現場に留まる。停電作業、非破壊検査など人がいない夜間しか出来ない作業、工程の都合で夜間にずれ込んだ作業は、誰もいない現場で続けられる。運転員のいる中央制御室も夜間は特に人の出入りが少なくほぼ密室となる。

大勢の人が見ている、監督者や監査人がいつでも来ることが出来る場所では不正行為にブレーキがかかることが期待出来るが、原発の内部のように狭く、暗く、密室状態で、立ち入りに許可や手続きが必要な場所は、これと反対で不正を行うには好都合である。特に夜間や休日にはひと気がないので不正がしやすい。先に指摘したような工期などのプレッシャーによって不正に走る際には歯止めとなる他人の監視の目が行き届かないことで、他の現場よりブレーキがかかりにくいことは容易に想像できる。

事実、原発の工事において、個人線量計を外して放射線の当たらないところに置いて作業する、マスクを外してしまう、忘れた部品や工具を回収できないまま作業を終了する、記録をでっち上げ数値を改ざんする、壊したり傷つけたりしたことを申告しないなどの事例が過去に起きている。

現場では、監視の目を増やすことには限界があり、作業者の固定化、経験者の優先、マイプラント意識の醸成など苦労しているが、特殊な現場環境と多層構造の請負体制の壁は厚い。

次回は不正を誘発する発注の仕方や仕様書について。                                       
(つづく)

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