日本エネルギー会議

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不正の温床(6)

(不適切な仕様書)
私が現役の頃、使用済み核燃料の運搬容器(キャスク)に使われる中性子遮へい材を製造している日本原電の子会社の原電工事(株)が、製品試験データを改ざんするという不正をした。キャスクは東京電力の柏崎刈羽原発の構内での輸送や原発から六ヶ所村の日本原燃再処理工場に使用済み核燃料を運搬する際に使われたが、結果的に容器外部の放射線量は基準値以下だった。

原電工事(株)は実物と同じ工程で作られた試験用キャスクの遮へい材からサンプルを採取し、成分分析を日本油脂(株)に依頼したが、いずれも成分中のホウ素濃度が仕様書に書いてあった基準値よりも低いことが分かった。原電工事(株)の担当課長(日本原電からの出向者)は「基準値より上でないと発注元の意向に添えない」として日本油脂(株)に対し実際よりも約10パーセント高い数値とするようデータ改ざんを示唆、基準に合う分析結果報告書を出させた。

後に調査したところ、それはどのようにしても技術的には達成出来ない幻の基準値だったという。担当課長は仕様書に書かれた基準値を疑うことなく、どうして基準値に達せないのかと悩んだ挙句、不正に走った。申し出なかったのは、自分たちに技術力が無いと思われるのが嫌だったからのようだ。

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と言う諺があるが、他人や他部門に対して「いまさら聞けない」と、問い合わせることを躊躇する技術者が多い。まして発注者と受注者の関係は対等ではなく、この程度のこともわからないのかと思われては、次の受注に差し支えると考えるのが下請けだ。

東京電力も後に、製品のキャスクは壊さないと濃度を調べられないため、確認はあくまでも製造データによるしかないと述べている。マンションの建設工事において打ち込んでしまった杭は見ることが出来ないため、施工の際に採ったデータ確認によるしかないというのと同じだ。データは簡単にコピー出来るなど、文書主義、形式主義は実に危険であるが、それを補完する手段を見つける努力が不足している。

私は現場にいたころ、建設現場では法令や基準すれすれでやることを奨励する、あるいはそのことを評価する雰囲気もないではないことを知った。建屋の外を巡視中、レッカー車を安定させるためアウトリガーを張り出して重量物を吊る作業をしていたが、車体の反対側のアウトリガーが地面からふわふわと浮いている。これは危険だと思い作業を中断してもらいオペレーターに詰問したら、「このくらい出来なければ、重量物を取り扱っている作業グループでは、お前はオペレーターとして腕が悪いと言われてしまうのです」と答えたので驚いたことがある。

反対に電力会社の若い監理員やメーカーの若い監督は、ベテランの下請けの親方に「そんなことを言っていたら仕事になりませんよ」「自分たちのやり方がある」と脅かされることもある。仕様書や現場の環境整備の不備を現場がなんとか繕って下請けが作業を終わらせてくれることもある。何回か作業をする間に貸し借りも出来る。電力会社の担当者が窮地に陥っていれば、現場のことに精通しているメーカーや工事会社の技術者はなんとか助けようと知恵を出してくる。現場のベテランが、仕様書などがオーバースペックであることや安全率が掛け算で効いていることを知っていることも、「この程度の違反なら実質問題はない」と考えるもとになっている。それが行き過ぎれば、福島第一原発で発覚した検査官を騙すための偽装をするという大胆なこともやってしまうのだ。

キャスクのデータ改ざん事件を起こしたため日本原電は子会社である原電工事(株)を取り潰したが、それは空前絶後の措置であった。電力各社の出資を受けている日本原電としては、そうでもしなくてはいられなかったのだ。もし、これから原発でデータ改ざん、偽装、事故の隠蔽などの不正が明らかになった場合、電力会社は自主的に当該原発を3年間停止すると、あらかじめ宣言することを提案したい。

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