日本エネルギー会議

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不動産屋の常套手段

福島第一原発の事故に伴う指定廃棄物の最終処分場の候補地になった宮城県、千葉県の自治体が、いずれも候補返上を申し出たため環境省は窮地に立たされている。これと対照的に福島県では先日、楢葉町、富岡町が処分場の受け入れを承諾したばかりだ。(エッセイNO.693 100億円と処分場を受け入れる話 2015.11.26付 参照) その決定に至る経過を分析すると、処分場など迷惑施設の場所の決め方に関してひとつのヒントが浮かび上がってくる。

私は原発事故で避難してから中古の借り上げ住宅を探した際に面白い経験をした。不動産屋に車で物件を案内されたが、いずれも送電鉄塔の脇とか、川沿いのハザードマップに入った場所とか、築40年といった物件ばかり。「もう少しましな物件を」と言ったところ、「では、少し駅から遠いのですが、とっておきのがあります」と言って案内された物件は今から考えればさほど優れたものではなかったが、今までさんざんひどい物件を見せられていたので、素晴らしい物件に見え即座に契約してしまった。本命を案内する前に、不良物件をいくつか見せるのが不動産屋の常套手段のようだ。

楢葉町の関係者によれば、以前、楢葉町は大熊町、双葉町とともに中間貯蔵施設の候補地として名前が上がり、比較的汚染の少ない楢葉町に何故中間貯蔵施設を造るのかと住民の猛反対によって返上を申し出た経緯があり、今回は前回断ったことの見返りであったとの話がある。

もう一つ、これも実話だが原発事故の前年に富岡町からは私の住む深谷行政区の東端に汚泥の処理場を建設したいという申し入れがあった。その処理場は双葉郡の全町村から出る汚泥を乾燥して処理する施設とのことで、毎日のようにバキュームカーで下水のない山間地の家々の浄化槽の汚泥を運んでくるというものだった。説明会は地区の集会所で何回も開かれたが、住民たちは「何故、深谷地区なのか」などと口々に町の担当者に迫った。また、安全対策に対する質問、受け入れに際しての条件も要求として出された。これに対して町は次のような回答をして住民はこの施設を受け入れた。

・双葉郡内では迷惑施設を各町村に公平に分担するという取り決めがある。
例えば火葬場は双葉町にあり、処理した汚泥の処分先は大熊町となっているなど。したがってこの施設受け入れは富岡町や深谷行政区に対して、別の迷惑施設が来ることはないという意味がある。
・従来、同施設は長年、深谷行政区の南隣りの小浜行政区にあったが、施設が古くなり、海岸の侵食で建て替えも出来ないので跡地は公園にする。
・設備は最新式で匂いや騒音は問題ない。(後日、地区住民で希望する人全員に秋田県大仙市の同様の施設を見学してもらう)施設は半分が海岸に面しており入口だけが地区に向いている。土地は現在国有地であるが、将来のことを考えて倍の面積とし隣接する田畑の所有者から買い上げる。
・建設や汚泥運搬に係る交通の問題は道路の補修と規制により安全確保をする。
・町から深谷行政区に対して二千万円の協力金を支給する。使い方は自由。(結局、全世帯に分配した)

誰でも苦い薬を飲むのは嫌だが、どうせ飲まねばならないのなら、あまり苦くない方を選ぶということだ。理屈のとおった説明に加えて、公平な負担と別の迷惑施設がこないことを約束することも重要なポイントだと思われる。 

不動産屋は、もしこの物件に決めていただければエアコンを一台サービスでお付けしますよと言ったが、もうひと押しという時にはアメが物を言うのも世の中の常識のようだ。
(追記)
この施設はその後建設が進み、完成間近になった時に東日本大震災に遭ったが、海抜30メートルの高台にあり、地震、津波ともに被害はなかった。現在は帰還困難区域となっているが、地表の線量は低く区域指定解除後はすぐに使用可能と思われる。

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