日本エネルギー会議

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不正の温床(4)

(不正の裏に工期のプレッシャーの存在)
原発のような巨大電源の建設では、工期をいかに短縮するかがその原発の経済性に大きく影響をする。金額的には杭打ち不正が起きたマンションなどとは桁違いだ。原発の建設費は1基総額数千億円、この資金の大半を金融機関からの借入や社債発行でまかなっている。資金は建設工期の数年間に何回かに分けて調達されるため、原発の竣工直前にその累計が最大となる。運転開始をすれば電力料金収入が入り返済が始まるが、運転開始が遅れればそれだけ余分に資金がかかり、さらに最大となった借入金の巨額の利息も増える。一日でも早く運転開始が出来れば、それだけ電力会社の収入が増えるとともに費用も減る。その原発の発電コストも安くなることになる。

建設期間が長引くことは建設費の増加に直結し、企業の存続に影響してくることもある。フランスの大手原発メーカーのアレバ社は、手がけたフィンランドのオルオキト5号機の建設期間が延びたことで存亡の危機に立たされている。これに対して日本の電力会社は総括原価方式に守られており、建設費の増加は電力料金で回収出来ている。とは言っても、一日でも早い運転開始が求められるのは日本も同じだ。

こうした事情は運転開始後に毎年行われる定期検査工事でも同じだ。定期検査工事で原発を停止している期間はあらかじめ決められている。もし延びるようなことがあれば、電力会社は大急ぎで別の電源を動かすか他の電力会社から融通を受けて不足分の穴埋めをしないと停電が発生してしまう。原発の定期検査工事は需給の逼迫しない春と秋に行われているが、それでも1基100万キロの原発が戦列から外れることは大変なことだ。マンションの発売日が着工前に早々に決まってしまっているのと同じ構造だ。

定期検査工事は通常2ヶ月程度だが、特にクリティカルパスと呼ばれる必須の工事や作業がある。原発の定期検査工事の工程は、タービン発電機の解列⇒原子炉の停止⇒格納容器の開放⇒圧力容器の開放⇒使用済み燃料の取り出し⇒新燃料の装荷⇒圧力容器の密閉⇒格納容器の密閉⇒原子炉の臨界出力上昇⇒タービン発電機の倂入⇒総合負荷試験という順序であるが、この間に各種の機器の点検や取り替えが行われる。時にはタービンの精密点検や大型機器の取り替え、原子炉圧力容器の検査など長期の工事が特別に行われる場合、それがクリティカルパスに入ってくることになる。クリティカルパスに入った工事や作業はそれが遅れれば、そのまま定期検査工事全体が延びる可能性がある。そのため、クリティカルパスになっている作業をする時は必死だ。

全体を通して、定期検査工程の最初の方では少々の遅れはなんとか取り戻せるが、工程が終わりに近づくとほとんどやり直しの機会はなくなってしまうため、現場の緊張感は最高潮に達する。いままでの実例を見ても、定期検査工事の最終段階での不正が目立つ。中にはメーターの偽装で国の検査官の目を欺くといった悪質なものまである。

全体工程にはデータ取り、社内試験、官庁試験が予定されており、特に最終段階ではその数も多くなる。現場確認のための検査官はスケジュールにしたがって現場に来る。もし作業が上手く行かなければ検査を受けることができない。そうなると再度検査日を予約しなくてはならなくなり、定期検査工事そのものが延びてしまう。電力会社も原子炉メーカー・工事会社もそれだけは避けたいと願っている。

現場作業はマイペースでは出来ない。作業現場では空間的には上下左右、時間的にも前後に別の工事会社や別のグループによる工事や作業があり、互いに影響し合う。それらは事前に工程会議を開いて調整されているが、現場ではしばしば計画変更が起きる。例えば、作業に使う発電所内に備え付けられているクレーンで材料を移動する作業があったとすると、そのクレーンを使う別のグループの作業が終了しなければ、そのクレーンは使えない。それまで現場で待機となるが、その日のうちに自分たちの作業を終わらせなくてはならないことは変わらない。自分たちのせいではないのに、休み時間がなくなったり、残業になったり徹夜になったりもするのだ。
原発は起動前に毎回、原子炉格納容器の耐圧テストを受けなくてはならないが、ハッチを閉める日時は工程表上で決められており、格納容器内の機器や配管、バルブなどに関する工事はなんとしてもそれまでに終わらせておかないといけない。原子炉起動後に格納容器内を窒素ガスで満たすが、もし容器内に入って工事を手直し
するならば、窒素ガスをパージして空気に置換しなくてはならない。それだけで数日は定期検査工事が延びてしまう。

電力会社が地域独占を許され、総括原価方式で守られているのは供給義務を課せられているからだ。いかなる場合も供給支障はあってはならないことであり、供給責任を果たすことは電力マンのプライドである。その意識は外部からは想像出来ないくらい徹底している。敢えて言うならば鉄道マンのそれに匹敵するだろう。話は脱線するが、今後自由化によって電力会社が地域独占と総括原価方式を失った場合、一番心配なのは供給責任の意識が薄まることだ。

福島第一原発の事故前、東京電力の担当者は原子力安全・保安院の役人から「長期間原発を止めることなどできるのか」と一番痛いところを突かれて過酷事故対策先送りに向かってしまった。「工程を死守すること」は不正に手を染めてしまう動機となりうる。 
発注者や元請け企業の経営陣は、「工程厳守」で社員や発注先の創意工夫を期待したのだろうが、あまりにも無理な「工程厳守」の指示は安全を脅かしたり、不正を誘発したりしてしまう。「工程厳守」の指示を出すとともに、どのような工夫をしたのか、不正はないか、安全が損なわれるような手抜きが行われないかを発注者や元請け企業はしっかり監視しなければならない。もちろん自らそのような指示を出すのは論外だ。
次回は不正を誘発する特殊な現場の状況について。            
(つづく)

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