日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(27)

本シリーズ(15)において巨大組織の危険な動きに対し外部の監視役の機能に限界があることを指摘した。対策を考えるにあたって、その内容を振り返るるとともに、それを踏まえた提言をする。(⇒以下は提言)

1.
福島第一原発の事故後、原子力規制庁が設置されたが、スタッフはかつての原子力安全基盤機構から数多く採用せざるを得なかった。新規採用、養成制度・計画・施設などはまだ不十分で、世界の最新情報を取り入れ質の高い、形式的でなく効率的な審査や検査が出来るかが課題。
⇒原子力開発の現状と課題にマッチする規制体制に沿った人材育成制度をつくり、採用の段階から規制一筋の人材の確保計画を実施する。外国の規制当局の経験者の採用や、世界各国の規制当局との人材交流を行う。

2.
立地自治体が電力会社と締結している安全協定に法的なものではない。自治体の担当部署スタッフの専門的能力は限界があり、情報は国や電力会社に依存している。特別委員会などもあるが、議会は原発支持の議員が多数。安全協定の対象となるのが原発の新増設、改造工事、事故トラブルに限定されている。原発の停止が地元経済に対するマイナスの影響があることに弱み。
⇒原子力規制庁との人事交流など、専門家の育成支援を受けながら専門性の高いスタッフの確保に努める。各地の立地自治体とスタッフの交換留学制度をつくる。
 
3.
原子力業界内の自主的規制を行う団体はいずれも電力会社や原子炉メーカーがスポンサーで、トップを送り込み社員を職員として派遣するので、団体はスポンサーに対して遠慮があり強制的なことはしない。近年、日本原子力産業会議を日本原子力産業協会に改組したため独立性は失われた。
⇒日本原子力技術協会が現地監査の評価結果について電力会社の社長を呼び直接意見しているが、そのやり方を継続発展させ、その内容を一般に公開する。
日本原子力産業協会とは別に原子力産業から資金や人材の支援を受けず、国民目線で原子力問題を分析し行動する組織を立ち上げる。

4.
巨大組織の大株主は概ね金融機関などの機関投資家であり、長期的で安定した配当を求めており、大事故による突然の経営危機や無配陥落は一番避けたいと考えているが、決算報告や事業報告などによって状況を把握することしか出来ず、大事故を起こした後の経営陣刷新や事業計画変更しか手段がない。
⇒原発の大事故を起こした電力会社を経営破綻させない場合には、出資者や債権者にも事故収束や賠償の費用の一部を負担させるような法律をつくる。

5.
保険会社は巨大組織が大事故を起こすことにより大きな損失を受けるが、事故後に保険料率を上げるか、撤退するしかない。あらかじめ具体的なリスクを評価し実績を分析して保険料率を個別に提示し事故防止を電力会社に促すことが出来ていない。
⇒原子力損害賠償保険を掛ける場合、大手損保によるグループによる一律料率方式でなく、各原発毎の安全性評価、事故が発生した場合の被害予測に基づき料率を決定する方式に変更する。

6. IAEAが事故前に「日本には設計基準を超える事故について検討する法的規制がない」と指摘し、過酷事故に十分備えるよう求めていた。国際機関の勧告はスピード感を持って実施に移されない。このように国際機関加盟が単なる形式になっている状況に対して学会、ジャーナリズムも声を上げない。
⇒原子力規制委員会が、IAEAの勧告や指摘に対して毎年我が国における実施状況率を公表し、原子力規制庁や電力会社に速やかな実施を促す。同時に海外の原発の最先端の安全対策の状況と我が国の原発の状況の比較について具体的に公表する。

7.巨大組織は多くの学会との関係がある。研究所、電力会社、原子炉メーカー、ゼネコンには各学会の会員が数多く働いている。彼らはいわば二重国籍であり、現役やOBとして所属している(していた)組織を背負って学会活動をしている。それゆえ、巨大組織が大事故を起こす可能性について純粋に議論し、電力会社などの負担を考えずに自分の考えをストレートに出すことに限界がある。
⇒各学会の会則に「学会員は所属の組織の方針とは独立した技術者としての立場から活動すること」を明記することを学会内部で検討するなど、所属組織との二重国籍問題について改善する。

8.メディアで福島第一原発の事故を予見したものはほとんどいなかった。多くのメディアも「原発の安全神話」をどこか信じていた。メディアは内部告発を契機に違法な点や管理の杜撰さを突いたことはあったが、原発のリスクに具体的に踏み込むことは少なかった。次々と起きる事件などを日々追い続けることで、巨大組織が大事故を起こすリスクについて掘り下げた取材と分析をする余裕が生まれない。
⇒あらためて、各メディアが福島第一原発の事故を予見出来なかった原因を考える必要がある。自ら発想する力をつけるとともに、巨大組織の問題行動に対して、科学部、社会部、経済部などが独立的に動くのではなく、連携を強化した体制で継続的な取り組みをして大事故のリスクをあぶり出す。科学技術の発展に即してメディアの科学部の体制を充実する。

9.反対派は巨大組織が大事故を起こすことを最も意識しているが、その意欲はほとんど空回りしている。反対派の感情的、情緒的な原発反対の主張は科学技術の元になっている客観性、合理性とは相容れない。反対派の主張は自分たちに有利な証拠のみを集め、手前勝手な理屈をもって結論ありきで考えたものが多い。電力会社など推進側は反対派をまともに相手に出来ないので、反対派が大事故を防止する役割を果たすのは難しい。
⇒反対派は国や電力会社に福島第一原発の事故の原因分析や対策を求めるだけでなく、自分たちが何故福島第一原発の事故を防げなかったか、事故後に行われた各種対策について何故事故前に十分具体的な指摘や要求が出来なかったか、何故世論を動かすことが出来なかったか、何故国や電力会社にまともな対応をさせられなかったのかなどを分析して、今後の活動に反映させる。

巨大組織に対する監視役は組織内部と組織外部ともに、規制当局を除いては巨大組織の圧倒的な力に対抗するにはあまりにも弱小である。それは人数、専門性、情報量、権限、立場、継続性など全てに言えることだ。その解決策の一つとして、上記の各外部監視組織が「巨大組織による大事故の発生防止」という共通の目的のもとに、コミニュケーション、共働を活発化する必要がある。
(つづく)

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