日本エネルギー会議

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住民の被ばく

現役時代に原子力業界にいた私は、一緒に避難した富岡町の友人などから被ばくについて「自分たちが受けた放射線や区域解除後に元の家で暮らした場合の線量はどの程度身体的影響があるか」と質問を受けることがある。「海外では先進国でも途上国でもこの程度の自然放射線の環境で暮らしている人はたくさんいるし、健康上心配するには及びませんよ」と答えるのだが、友人たちはかつて「放射線は必要がないのなら出来るだけ浴びない方がよい」と聞いたことが頭の片隅にあるのだろう、「そうですか」とは言うものの、いまひとつ納得出来ないという顔をする。

昨年暮れに癌を患った福島第一原発の廃炉作業員が労災認定を受けた。これは地元の新聞でも詳しく報じられ、住民たちが受けた線量とは桁外れに大きな被ばくであること、被ばくと癌との因果関係は証明されなくても、労働者救済の点から癌の種類や累積被ばく線量など一定の条件を満たせば労災認定することになっていることを知った人が多い。

作業上の被ばくは作業の遂行という目的があり、そのための被ばくは正当化される。医療被ばくにしても、病気の検査や治療というメリットがあるので被ばくが正当化される。しかし、原発事故による住民の被ばくは単にそこにいただけなので正当化は難しい。原発事故はある確率で起き、その際住民は余分な被ばくというデメリットを受けることになる。しかし、住民たちは、そんなことは万が一にも起きないと国や電力会社からは聞かされていた。 

今後、元の町に戻って生活すれば、わずかながら以前より大きな年間被ばく線量になる。住民の被ばくを正当化する理由(メリット)は何なのか。あえて言うのなら、全国の電気の消費者には原発という安定的で二酸化炭素を出さずに安い電気を作りだすというメリットがあり、地元の住民には雇用や交付金などのメリットがあった。だが、「事故による住民の被ばくは、地元の経済的恩恵という正当な理由があったのですよ」と言っても友人は納得してくれないだろう。一般の人々は反対派が煽り立てるような被ばくによる健康障害はないと信じていても、「たとえ僅かでも癌になる確率は増えたのではないか」と思うし、県内の避難先や元の家で暮らしを再開するのに何か抵抗を感じるようだ。 こうした感情をなくすには、根気強く放射線を測定しデータ化したり、健康調査を続けてその結果を知らせたりしていく以外にないだろう。

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