日本エネルギー会議

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事故後5年で見えてきたもの(4)

(大規模除染の意味)

福島第一原発の事故後、2兆円をかけて除染が行われている。これは史上例のない規模の除染だが、その影響が事故後5年経過するなかで広がっている。
今回の除染は従来、原発内部の汚染管理区域などで行われたのとは様相が異なる。原子力施設において除染作業が行われるのはほとんどが室内であるが、福島で行われているのは屋外であり、主に道路、民家、田畑などであることが特徴だ。原発内部でポタポタと床に溢れた一次系の水を雑巾で拭き取る除染とはまったくちがう。
放射能汚染は壁や仕切りで拡大しないよう閉じ込めるのが原則だが、今回は事故により放射性物質が外部に出て風に乗って拡散し、雪が降ったように地域全体にあらゆるものに付着してしまった。建物は高圧水で洗浄し、木の枝や草は刈り取り、地面は表土を剥ぎ取り、新しい土を入れるというやり方だから、その面積と除染により出てくる放射性廃棄物の量は莫大なものになる。除染は避難区域以外でも県内いたるところで行われている。下の写真は先日、東北新幹線の郡山駅前で行われていた光景だ。ここは震災以降も誰もが自由に通行していた場所だ。


次の写真は私が避難している須賀川市の住宅街で行われている一般住宅の除染の様子。既に学校や公園などの除染は終わっており、先月あたりから一般の住宅地の除染に取り掛かっている。担当者が各戸に敷地内の放射線測定を行うかどうか聞いてくる。測定して欲しいと答えると、数箇所を測定し結果が示される。年間換算で1ミリシーベルトをわずかでも超える地点が一箇所でもあると除染をするかどうか聞いてくる。ほとんどの家は除染を要望しないが、この家の一人暮らしの高齢者は「綺麗になるというからやってもらうことにした」と言っていた。前日に建物に足場を組んで、除染はすぐに終了。敷地内の土の入れ替えは別のグループが行った模様だ。

除染のやり方はいろいろ研究されたが、結局は枝切りハサミ、草刈り機、箒にスコップ、高圧水、それに建設用のユンボーやレッカーなどの重機、ダンプカーを使って行われている。工事請負の中身は重機や機械の損料、重油やフレコンパックなどの消耗品、それに一番多いのがオペレーターや作業員の人件費だ。防潮堤などの建設工事と違って材料費がほとんどない。一番近いのが清掃作業だろう。
これを請け負ったゼネコンの下には、全国から中小の土建業者が格好の儲け仕事を求めて集まってきた。作業は単純繰り返しであるが、作業員数は莫大なものとなる。これだけの人数を集めるとなると、土建業界の特徴である多層構造の請負体制に依存しなければならない。この体制は現在仕事についてはいるが転職が容易な人、現在失業中の人、よりよい賃金処遇を求めている人などを短期間に広範囲に集めるのに最も適したシステムである。集めやすいということは、また本人が一つの仕事や場所に定着性が低く、すぐに辞めてしまう可能性が高いということだ。実際、作業員の出入りはすさまじいようだ。
こうした多層構造の請負体制においては、まともな業者もいるが、適正な利益以上のものを求めて作業員の賃金からピンハネをするような悪質な会社や人工出しと呼ばれる人材供給だけをやる者が入り込むことが多く、暴力団の暗躍も耳にすることがある。労働基準監督書が監査すると、毎回半数を超える会社が違反をしている実態が浮かんでくる。
除染作業員が大量に居住するようになった南相馬市では町の雰囲気ががらっと変わってしまった。最近、南相馬市には東北で最大規模のパチンコ店が開店したのも大量の除染作業員と関係していると考えられる。実際に住民の女性が襲われる事件が発生して、住民は不安を抱えている。
エジプトのピラミッドは古代の公共事業だったと言われているが、残されたピラミッドは今や大事な観光資源だ。1929年の大恐慌の中、アメリカのルーズベルト大統領は失業者対策としてニューディール政策を行い、ダム建設などの公共事業を行い、失対事業をやりながら社会インフラを整備した。
今回の大規模除染は大規模公共事業に間違いないが、新たな生産設備が出来ることもなければ、人材育成がされるわけでもない。ゼネコンに支払われた工事代金は本社のある東京に還流し、地方では土建業界がバブル景気となっている。作業員は賃金を飲食や遊興に使い、地元の関係者を潤している。汚染され住みづらくなった土地を除染することで再び住めるようにし、企業は生産活動を再開出来るようにすることが必要ではあるが、それにしても2兆円もの金が、単なる土やゴミの移動に使われているのは痛ましい。(この地方では「もったいない」という意味で「痛ましい」という)

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