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「石棺問題」の意味するところ

先日明らかになった福島第一原発の「石棺問題」に対する福島県の反発は大きかった。知事の珍しく怒りを露わにした記者会見、新聞の論調もおしなべて政府や支援機構に厳しいものだった。地元紙福島民友は社説で「福島第1原発の廃炉とは、核燃料を取り出して、構造物を解体し、放射線のない土地に戻すことだ。それが県や市町村、地元住民らの共通認識だ。石棺化などあり得ない話だ。」と主張している。石棺が採用されれば、「負の遺産」となり風評が定着するおそれがある。事故から5年余りで石棺という消極策が論じられることには違和感があるとも書いている。

その後、林幹雄経済産業相は表現の修正を指示し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の理事長は釈明に追われた。
そもそも福島第一原発の廃炉の定義はどうなのかについて解明しておく必要がある。「核燃料を取り出して、構造物を解体し、放射線のない土地に戻すこと」だけが廃炉ではないはずだ。通常の原発の場合であっても必ずしもそうではない。原子炉建屋はそのままにして内部空間に廃棄物を詰め込む方法もある。まして事故炉であれば、その状況に応じていろいろな選択肢があるのは当然だ。 

国や東京電力がどのような廃炉の最終型を示しているのか、いないのかを調べたところ、経済産業省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室が2016年2月に発行し住民に配布さされた小冊子「廃炉の大切な話」には、「事故の際に溶けて固まった燃料を取り出し、それを安定的に保管することで放射性物質による人や環境への影響の継続的な低減を目指します。」と明確に書かれて廃炉までのロードマップもそのようになっている。

ところが、政府の廃炉・汚染水対策関係閣僚会議の下にある廃炉・汚染水対策福島協議会(地元関係者への情報提供・コミュニケーションの強化、広報活動のあり方を議論する場)の名前で経済産業省のウェブサイトに掲載している「福島第一原子力発電所の現状と廃炉に向けた取り組み」(PDF)平成26年8月25日付には、石棺も含み広く検討すると書かれている。

同じものが、東京電力のウェブサイトにも出ている。以下はその抜粋だ。
廃炉とは「安全貯蔵」や「解体・処分」をすることです。「福島第一」においても最終的な処分の方法を考えながら、国内外の協力をいただき、最適な方法で「廃炉」を進めていきます。

このPDFがいつ時点からウェブサイトに掲載されたかは定かではないが、少なくとも今日現在も掲載されている。
平成26年2月17日、福島市において、開催された第1回廃炉・汚染水対策福島評議会のメンバーを見ると、経済産業省や原子力規制庁などの役所、東京電力、地元自治体首長、地元経済界などである。上記の「福島第一原子力発電所の現状と廃炉に向けた取り組み」(PDF)平成26年8月25日付はこの福島評議会の第4回会議で資料として配布されているのだ。

4時間にわたる第4回の会議の議事録を読んだ限りでは、この資料を事務局が説明したり、委員との質疑があったことはなかったようだ。委員会は汚染水のことや廃炉の工程表のこと、地元に対する情報伝達などかなり個別の問題に関して議論しており、「廃炉をどこまでどのようなかたちでやるのか」については議論していない。
資料には「安全貯蔵」「建物カバー」「チェルノブイリの場合」などの文字やポンチ絵もあるのだが、地元自治体などの委員からは質問は出ず、最終的に何を目指すかについては委員会で議論にならなかったようだ。このことについて副知事や自治体首長は何故その時、見過ごしたのだろう。

この資料が今も国や東京電力のウエッブサイトに掲載されていることは、支援機構が戦略プランから「石棺」の文字を削除しても「頭隠して尻隠さず」になっていることを指摘したい。

今回、支援機構がすぐにひっこめたとはいえ一度は「石棺」の表現を取り入れたことは、福島第一原発の廃炉が、それほど技術的に困難であり、燃料デブリを取り出せたとしてもその保管先・処分先の見通しがたたず、想像を絶する費用と時間がかかることを暗に示している。先の資料のポンチ絵を書いた作者も、2年前にそれを臭わせておくべきと配慮したのだろう。彼らは「あくまでもすべてを解体撤去し、放射性廃棄物は区域外に持っていく」と根拠なしに言い続ける政治家や官僚よりはずっと良心的ではある。

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