日本エネルギー会議

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行動の前に、ちょっと待て!−エネルギー制度づくりで必要なこと 石井孝明(経済・環境ジャーナリスト)

私は経済記者という立場で、エネルギー・環境問題に向き合ってきた。この分野では、日本の誇るすばらしい技術、優秀な人材など、未来に希望を持たせる話がたくさんある。しかし、現在はそれが活用しきれていない残念な状況がある。

今回から日本エネルギー会議のウェブサイトで連載をするすばらしい機会をいただいた。ここで情報を読者の方々と共有しながら、エネルギーと環境問題の未来を考えたい。第一回目のこのコラムのテーマは、政策決定のあり方だ。

◆限られた人による政策決定

3つの写真を紹介したい。福島原発事故後の2011年春に行われた再エネイベントでの光景だ。再エネを唱える文化人、ソフトバンクグループの孫正義代表、そして当時の首相の菅直人氏が映っている。


(写真1)再エネ振興の会合。菅直人氏、孫正義氏と文化人(2011年4月)

(注・テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のキャプチャー)

残り2枚は再エネの振興策の結果だ。私が2015年6月に山梨県北杜市で撮影した。ここは森に囲まれた美しい場所で日照が良い。太陽光発電の乱開発で森が切り開かれ、パネルが置かれていた。私は木を切り倒して運ぶトラックを見ながら、とても悲しくなった。3枚の写真は密接に繋がっている。


(写真2)北杜市の太陽光発電予定地。住民の反対運動が起きた


(写真3)北杜市の各所にあった工事現場

11年3月に起こった東日本大震災、そして福島原発事故は全国に大変な衝撃を与えた。その直後に感情が渦巻くことはやむを得なかっただろう。

ところが冷静であるべき政策の議論が、感情的になっていった。その一つが、再生可能エネルギーへの過剰な期待だ。

この時、原発事故で、政府と原子力・エネルギーの専門家の信用は地に落ちていた。菅直人首相(当時)は個人でも、原発、震災対応の混乱で大変な批判に直面していた。民意はそろって原発を批判し、民主党の一部政治家や一部の人たちは「原発の代替策は再エネ」と、夢物語を主張をした。孫氏は再エネの支援策を政権に提案し、かなり取り入れられ、ソフトバンクグループはその後、再エネ事業に参入した。

したたかな経営者、素人文化人、落ち目の政治家の3者の映った上述の写真1は、当時の政策決定の断面を切り取っているように思える。

◆再エネ振興策の危険、事前警鐘は無視

現状を見てみよう。政府は再エネで「固定価格買い取り制度(FIT)」という支援策を12年から拡大した。太陽光、風力などの自然による発電を買い取り、他の利用者がコストを負担するものだ。さらに、1kWあたり42円という、世界でもっとも高い買い取り価格が導入された。発電単価は、電力会社の既存設備では同6円程度であり、大変な優遇だ。

2017年度の再エネ買取総額は2.7兆円で、前年比4000億円増となる。そして30年には4兆円以上になると見込まれる。

震災前の2010年に電力の売上高は約15兆円程度。2.7兆円規模の補助金は大きすぎる。全発電量に占める水力以外の再エネの割合は、震災前の1%から16年度には3%程度に増えた。国民が数兆円払って増やす価値のあるものだっただろうか。

また政治主導で、再エネをめぐる建設規制が、FITの時に緩和された。その結果、生じたのが乱開発だ。環境を守るためとされる再エネで、山梨県では森が切り開かれ、住民と事業者のトラブルが多発していた。2017年になっても、北杜市で乱開発は続き、一部住民の反対運動は続いている。

もちろん、再エネの拡大は必要だ。しかし、副作用とも言える環境破壊、国民負担の増大という悪影響が広がっている。

◆広く意見を聞く、当たり前の政策決定を

再エネの意思決定は「一つの政策が、政策目的以外の別の問題を引き起こすこと」「限られた人による政策決定は誤りを生む可能性があること」を示すだろう。

事業者、専門家などのプロと一般人の乖離(かいり)は、複雑な現代社会では生まれがちだ。エネルギー問題は、複雑で、その乖離幅は大きい。しかし溝が深まると、さまざまな危険がある。プロは実は無能であるかもしれない。私たちは福島原発事故で、プロの大失態を見た。

しかし専門家の否定をすれば、感情が意思決定に入り込み、それが適切な判断をゆがめる。再エネでは、規制緩和と過剰な補助金は、弊害も生むことが事前に専門家から指摘されていたのに、脱原発というかけ声の中で無視されてしまった。

適切な政策決定はどうすればいいのか。解決策は当たり前のことしかない。できる限り衆知を集め、冷静に熟議を続け、慎重に政策をつくり、運営することだ。それでプロの失敗と、ポピュリズムの暴走を抑制する。それには情報の公開、そして批判を受け止める仕組みの整備が必要だ。そして社会全体の知性と判断力の向上があれば、決定の中身はより適切になる。一時の民意に基づいて問題の決定を下すべきではない。それは移ろいやすいものだし、間違える可能性も多いのだ。

エネルギー問題では最近、原子力をめぐる「賛成」「反対」という話のみがクローズアップされ、民意が過度に政策に影響を与えたように思う。原発事故から6年。エネルギーでも冷静な検証を行い、熟議を再開するべきだろう。その積み重ねが、日本の社会の姿に大きな影響を与えるエネルギーの形をつくる。私の一連のコラムが、議論のきっかけになれば幸いだ。

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