日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

ドイツ電力会社の苦悩は明日の日本の姿 小野章昌(エネルギーコンサルタント) 2017.4.4

 ドイツの電力会社の経営が危機に瀕していることをどこまでご存じであろうか? エネルギー・電力業界に構造的に発生している問題であり、このまま放置すれば電力会社の破産に行き着く問題である。2016年の年間決算でドイツ最大の電力会社エーオン社は160億700万ユーロ(1兆9,200億円)の赤字を出し、第2位のRWE社は57億1,000万ユーロ(6,850億円)の赤字決算を行った。

 問題の根幹は火力発電分野の恒常的な赤字とそれに伴う資産の減損である。配電・小売り部門の収益や天然ガスの輸送・販売の収益そして外国の発電部門での収益などによってかろうじて企業の体裁を保っているが、従来の主力であったドイツ国内の発電分野では見る影もない形に落ちぶれている。なぜそうなったのであろうか?それは国のエネルギー政策による影響をもろに受けたからである。

 ドイツは先行国として2000年から再生可能エネルギーによる発電の全量固定価格買取制度(FIT:フィード・イン・タリフ)を設け、太陽光や風力発電の優先受入れ、優先買取を行った。その結果として太陽光・風力の発電設備量(kW)は8,900万kWと国内の最大需要量7,800万kWを大きく上回るようになり、発電量(kWh)でも18%程度を占めるようになった。
 その結果としてドイツ国内の発電設備量は最大需要量の2.7倍近い2億750万kWにまで膨れ上がった。これは太陽光・風力が既存の火力発電などを代替することはできず、また火力発電は相変わらず、変動する太陽光・風力発電をバックアップするために必要とされていることを示している。
 一方で火力発電は優先購入された太陽光・風力の発電量(kWh)分だけその発電量を落として、稼働率を下げることを余儀なくされているのである。またFIT制度の下で送電会社によって一度買い上げられた電気が卸売市場で安値販売されるため、卸売市場価格は下がり続け、2008年の6.99ユーロセント(8.4円)/kWhから2016年の2.66ユーロセント(3.2円)/kWhへと下がり続けて(図1参照)、火力発電の採算を大きく悪化させているのである。
 稼働率と販売価格の両面でダブルパンチを受けているドイツの火力発電が大赤字を出すのは当然のことで、これからも太陽光・風力が増えれば増えるほど問題は深刻化するであろう。


図1 卸売市場の電力価格(ベースロード電源)

注)各年の紫色横線はその年のベースロード電気の平均売買価格、青線はピークロード電気の売買価格を示す。縦軸単位はユーロ/MWh。出典:Agora

 過剰発電設備の発生と市場価格の低下という構造問題は一朝一夕には解決できない問題であり、ドイツの上記2大電力会社は会社の分割によって少なくとも片方の会社は生き残らせようとしている。エーオン社は本社に安定した収益を今後とも望める配電部門と小売部門を残し、再生可能エネルギーも残して優先制度の利益を求めたい考えである。
 収益が望めない火力発電部門はウニパー(uniper)という別会社を作り移管するとともに、天然ガスの売買部門も移管した。両部門の2016年売上高は前年比マイナス27%となっている。税前利益も発電資産の減損処理を余儀なくされたため40億ユーロ(4,800億円)の赤字となっている。

 RWE社はエーオンとは逆に子会社イノジー(innogy)に収益が望める分野である配電部門、小売部門、再生可能エネルギー部門を移し、そこからの配当で本体は生き残りを図ることとしている。本体には火力発電部門と原子力発電部門を残し、収益がまだ見込める外国の発電部門からの収益増を期待している。
 本体が所有する発電設備量はドイツ国内が2,630万kW、英国850万kW、オランダ540万kW、ハンガリー160万kWで合計4,180万kWあり、子会社イノジーの持つ再生可能エネルギーの設備量は370万kWに過ぎない。グループ全体の2016年発電量は2,161億kWhであるが、イノジー社の再生可能エネルギーは108億kWhとグループ全体の5%に満たず、これが将来のRWEグループを救う事業にはなり得ないことを示している。
 このように2大電力会社が火力発電部門の分離を行い、採算悪化が更に進んだ場合に備えて政府援助を受けやすくしているのが現状と言えよう。政府は、太陽光・風力をバックアップする火力発電の会社を破産させるわけには行かない。
 一方で過剰な発電設備を抱えているため火力発電を生き残らせるためには市場にだけ頼っていては無理であり、何らかの援助システムを構築する必要が出て来よう。太陽光・風力が増えれば増えるほど国内設備の過剰が進み、すべての電源に対して補助金を出す羽目になるのが目に浮かんでくる。

 そのような犠牲を払っても、最初の目的であった炭酸ガス排出量の減少には結びついていないのが頭の痛いところである(図2参照)。発電分野だけを見ても2009年の排出量3億100万トンが2016年には3億600万トンと逆に増えているのである。図に見るように、褐炭火力(Lignite)、石炭火力(Hard coal)が相変わらず大きな割合を占め、排出量が減らないのが悲しいところである。
 我が国も先行国ドイツの電力業界のこのような苦悩の姿を良く認識してエネルギー計画を立てる必要がある。ドイツの今日の姿は明日のわが身である。


図2 発電分野におけるCO2排出量

注)グラフ上部の各年の数字は排出量(「百万トンCO2」)、色付きグラフは下から褐炭火力(茶色)、石炭火力(黒)、ガス火力(淡青)、石油火力(濃青)、その他(灰色)。出典:Agora

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter